今後世界のIoTデバイス数は約500億台にも上ると予測されている。そんな近い将来を見据え、既存のインターネット(IPネットワーク)と共存しながら、効率よくIoTデータをやり取りするための国際標準「IoT DEP(Data Exchange Platform:データ交換プラットフォーム)」が日本発でISO/IEC30161として発行された。
なぜIoT通信のための専用プラットフォームが作られたのか。背景には、IPネットワークが抱える課題がある。
IPネットワークでは、データ/コンテンツを取得する際、その情報が置かれているサーバーの「住所」、つまりIPアドレスをDNSサーバーに問い合わせ、アクセスする必要がある。そのため、IoTを含む通信デバイスが増えるにつれ、DNSサーバーの負担が増大してしまう。もう1つの課題は、HTTPなどのプロトコルはヘッダーが非常に長く、通信帯域を逼迫する原因になっていることだ。特にIoTの場合、1回に送信するデータ本体は100~200バイト程度と小さくても、ヘッダーは300~400バイト。つまり100バイトのデータを送るにも、合計500~600バイトを送信しなければならないのだ。
IoT DEPの標準化を主導した金沢工業大学の横谷哲也教授らは、ISO/IEC JTC1/SC41(IoT DEPの国際標準化の主戦場)で収集された交通、社会インフラ、ホーム、オフィス、工場など、有力なIoTの23のユースケースを分析した。すると広域ネットワークで提供することを期待しているIoTサービスが86%、さらにそのうち42%がパブリックワイドエリアサービス、つまりインターネットを経由するサービスを想定していることが分かった。今後インターネットを利用した数多くのIoTサービスが実現し、IoTデバイスが増加したとき、IPネットワークだけに頼りきったままでは限界が来てしまう。
金沢工業大学 工学部 電気電子工学科 教授 横谷哲也氏
「以前から、今のインターネットは使わないで、フルスクラッチでネットワークを作り直そうと様々な議論がなされてきた。しかしこれだけWindowsやLinuxなどインターネット系をサポートしたOSが出回っている以上、インターネットがなくなるはずがない。ただ、OSの上に乗るミドルウェアについてはまだまだ改良の余地がある。そこで、既存のインターネット上で動作し、HTTPやFTPといった既存のプロトコルとも整合する、IoTサービス向けの軽量プロトコルとして標準化したのがIoT DEPだ」と横谷教授は説明する。
こう聞くと、ヘッダーを軽量化するプロトコルとして既に開発されているMQTTやCoAPでは解決できないのかという疑問が湧くが、横谷教授は「結局それはHTTPの置き換えに過ぎないので、DNSサーバーのパンクを回避できないという問題が残る」と指摘する。IPネットワークが抱える2つの課題を一気に解決するためにも、IoT DEPが必要になるのだ。