もともと軍事用レーダー技術として研究が進められ、2002年に米国で民生利用が開始されたUWB(Ultra Wide Band:超広帯域無線通信)。超高速通信に加え、cm級の高精度測位・測距が可能で他の無線通信規格との干渉も少ないなど、UWBは多くの利点を持つ。だが、長い歴史に比して、製品への採用例は非常に限られていた。“流行らなかった無線”の代表例に挙げる人もいるだろう。
そんなUWBが再び脚光を浴びたのは2019年のこと。9月に発表されたiPhone 11がUWBを搭載したのがきっかけだ。アップルは2020年発売のiPad、Apple Watch、そしてiPhone 12にもUWBを採用し、位置情報サービスに活用しようとしている。
日本での重要な動きもあった。屋外利用の解禁だ。欧米はじめ世界各国ではすでに認められていたが、国内でもようやく2019年5月に一部帯域が屋外で使えるようになった。
これを皮切りに「本物の波が来る」と話すのは、かつてUWBの国際標準化をリードし、業界団体でビジネス活性化にも取り組む横浜国立大学大学院 工学研究院 教授の河野隆二氏だ。「ビジネスが盛り上がるための条件が揃った」と期待する。
横浜国立大学大学院 工学研究院 教授の河野隆二氏
レーダー技術に由来する特性UWBの特徴を改めて整理しよう。
数百MHzから数GHzの非常に広い帯域を使用すること、非常に短い時間長のパルス信号を発生させるインパルス方式の軍事レーダー技術をベースとすることが、Wi-Fiや4G等とは大きく異なる特性を生み出している。米国FCC(連邦通信委員会)では、10dB比帯域幅が中心周波数の20%以上(図表1参照)、または500MHz以上の帯域幅を使用する無線通信をUWBと定義している。
図表1 他の無線システムと比較した超広帯域UWB無線
最もわかりやすい特徴は、①高精度測位・測距と②超高速通信だ。
UWBは、1ns(ナノ秒:10の-9乗)という短い時間長のパルスを使う。分解能が高いため、レーダー用途では対象物との正確な距離、さらには形状も把握可能だ。ピンポイント爆撃や戦闘機のドッグファイトをサポートするために生まれた技術だと考えれば、その性能の高さを理解しやすいだろう。民生利用では、自動車の衝突防止用レーダーに用いられている。
これを通信に使うと、1秒間に10の9乗ビット、つまり1Gビットのデータが送れる。かつ、三点測量によって「cm級の測位が可能」(河野氏)だ。屋内でも使えるうえ、GPSに比べてはるかに高精度に位置を把握できる。