日本では2016年から立ち上がったLoRaWANもまた、LPWAのパイオニアだ。LoRaWANは、米セムテック社が開発した無線周波数の変調方式「LoRa」を採用し、LoRa Allianceが策定したオープンソースの通信規格。低消費電力はもちろん、長距離通信にも優れる。センスウェイが行った実験では、最大123.43kmのデータ送信に成功したほど。対応デバイスの数も多く、Actilityが提供するデバイスマーケット「ThingPark Market」には2020年12月時点で1200デバイスが登録されている(下写真)。
Actilityの松原崇氏によれば、「LoRaWANはフランスのOrangeやNTT西日本をはじめ、世界で数多くのキャリアに採用され、キャリアの高度な通信の要求、チューニングに対応してきた実績があり、信頼性・安定性も高い」。
同氏は市場の現状について、「世界的に順調に成長している」と説明する。独IoT Analytics社の調査では、標準規格であるLoRaWAN以外の独自仕様も含めたLoRa全体の2019年の接続数を1億2500万以上と推定している。年間平均成長率は2017~2019年が63%、2020~2025年の間にも43%が見込まれている。
最近、Amazonが開発中の通信規格「Sidewalk」にLoRaが採用されていることが話題となった。Amazonの参入によりLoRa対応デバイスが大量に出回ることで、「LoRa市場全体でさらなるデバイスの多様化、低廉化が期待できる」と松原氏は語る。
Actility アジア リージョナル セールスディレクター 松原崇氏
ユーティリティとトラッカーが有力LoRaWANのユースケースとして今有力なのは、ユーティリティとトラッキングだ。「ユーティリティというのは、電気、ガス、水道などのスマートメーター。フランスでは300万台の水道メーターをLoRaWANでスマート化するプロジェクトも進んでいる。また、スマーシティの分野で、位置情報関連のデバイスやユースケースが増えている」(松原氏)。
Actilityでは、グローバルでのトラッカーの出荷実績は2019年に10万台、2020年はその2、3倍に伸びたという。また、労働者の健康・労働管理や、新型コロナウイルス感染症対策として、身に着けるタイプのデバイスも伸びているという。
「Actility社内では最近、『オイル&ガス』がキーワードになっている。海外の石油や鉱山などの採掘現場のことだ。労働者にデバイスを配布し、作業環境下での体調や生産性を測る。こうした案件は作業員1人ひとりにデバイスを配布するので導入台数が多く、インドのTATAグループでは万単位で導入された」(同氏)
センスウェイでも、作業員の見守りソリューションの問い合わせ・導入が増えている。腕時計型のバイタルセンサーを作業員に配布し、体温や脈拍などのデータを取得する。「これまでもこういったセンサーはあったが、Bluetoothを使ったものが多く、その場合データを飛ばすために1人ずつ携帯電話も持たせなければならない。そうすると初期コストもランニングコストも相当かかる。LoRaWANなら腕時計型のデバイスとゲートウエイだけあればいいので、コストを大幅に抑えられる」とセンスウェイの佐藤俊明氏は話す。