「なぜIP化するのか」――。
放送・業務用AV業界では長らくこう問い続けられてきた。その議論が勢いを得たのは、映像伝送において長年、“標準規格”の座にあったSDI(シリアルデジタルインタフェース)の限界が見えてきた頃、具体的には4K映像の活用が始まったときだ。
非圧縮のデジタル映像/音声をBCNコネクタと同軸ケーブル1本で伝送し、“つなぐだけ”で使えるのがSDIのメリット。だが、急速に進む映像の高精細化に追いつくことが難しくなった。
“標準規格”が直面した壁SDI規格はこれまで、SD-SDI(270Mbps)、HD-SDI(1.5Gbps)、そしてHDプログレッシブ映像を伝送するための3G-SDI(3Gbps)へと進化しながら、「1本のケーブルで1本の映像を伝送する」ことを実現してきた。
だが、HDプログレッシブの4倍の解像度となる4Kの登場時、これが途絶えた。単純計算で12Gbpsの伝送性能が必要になり、4K映像が使われ始めた時点では、3G-SDIケーブルを4本使って対応するしかなかった。
その後、12G-SDI規格が作られ、これに対応するケーブルも登場したが、SDI規格はこの間、ケーブルの本数と伝送容量の問題に常に悩まされてきたことになる。そして現在は、8K対応という途方もなく高い壁に直面している。
なお、映像伝送規格としては他に、家庭でもよく使われるHDMIがある。こちらも48Gbpsという広帯域伝送が可能な新規格「HDMI2.1」が登場しているが、HDMIは伝送距離が難点で、通常は5m程度、HDMI光ケーブルでも数十mと短い。
これを克服する術として活用が進んだのが、IPによる映像伝送(Video over IP)だ。
IPの世界では100Gbps伝送がすでに普及期を迎え、400Gbps伝送技術も確立されている。一般的な企業のオフィスや商業施設等でも、10GbE(ギガイーサネット)は珍しくない。
映像伝送をIP化すれば、解像度と伝送容量の問題は解消され、新たな映像フォーマットが出る度に新規格に対応するための設備更新が求められる苦境から脱することができる。4Kに対応するSDI規格の製品も揃ってきてはいるが、将来を見据えればIP化こそが現実的な選択肢になる。