高速大容量(eMBB)、超高信頼・低遅延(URLLC)、多数同時接続(mMTC)という5Gの3つの特徴を活かして産業用ユースケースを開拓するのに欠かせないのが、「ネットワークスライシング」だ。単一の物理ネットワーク上で性能の異なる複数の論理ネットワーク(スライス)を使い分け、多様なユーザーの要件に応えられるようにする技術である。
例えば、8K映像伝送用に「高速大容量スライス」を使う、通信容量は少ないが遅延を極端に抑えた「超低遅延スライス」を機械の遠隔制御に用いるといった具合だ。あるいは、超多数のデバイスを収容しながら、ある程度の低遅延通信が可能なようにURLLCとmMTCの中間的な性能を持つスライスを使うといったケースも出てくるだろう。
このネットワークスライシングが実現して初めて、5Gは真の姿を表す。その時期はいつ頃になるのか。
ネットワークスライシングの全国展開は2023年以降に携帯キャリアが全国レベルでネットワークスライシングを提供するのは、早くとも2023年頃になりそうだ。一部のユーザーや地域に限定して先行的に提供する場合でも、2021年からスタートすると見られる。
というのも、RAN(無線アクセスネットワーク)からコアネットワーク、トランスポートまで含めたエンドツーエンドのネットワークスライスを作るには、「5G SA(スタンドアロン)」の導入が必須だからだ。
LTEをアンカーバンドとする5G NSA(ノンスタンドアロン)では、ネットワークスライシングは実現できない。ノキア Bell Labs & CTO シニア標準化スペシャリストの柳橋達也氏は、「LTEコア(EPC)にもスライスを作る『デコア(DECOR)』という技術があるが、これは端末や通信の種別によって使うコア網を変えるだけのもの。無線、トランスポートも含めたエンドツーエンドのスライスはSAが大前提になる」と話す。
ノキアソリューションズ&ネットワークス Bell Labs & CTO
シニア標準化スペシャリスト 柳橋達也氏
国内キャリアは2021年半ば以降に5G SAを導入する見通しである。技術的には、この時点からネットワークスライシングを用いたサービス展開が可能になる。
ただし、ユーザー側のサービス要件に応じて柔軟にスライスを提供し、さらにスライスごとにサービス品質の監視や保証等を行うことまで含めると、その運用はかなり複雑なものになる。大規模に展開するには、数年の準備期間が必要だろう。エリクソン・ジャパン CTOの藤岡雅宣氏は、「大々的に入ってくるのは、2023~24年になる」と予想する。