残量の可視化で交換時期を最適化 配送業務の向上でコストも削減ニチガスは、LPガス、都市ガス、電気の小売事業などを行う総合エネルギー企業。関東地方1都6県・山梨県・静岡県で事業を展開、167万件以上のお客様にガスと電気を提供している(2020年2月末現在)。
スペース蛍は、ガスメーターをオンライン化し、ガスの使用量をリアルタイムに計測可能にするNCUだ。
「スペース蛍」は、蛍のような形状でガス管に短時間で取り付けることができる
これまでは1カ月に1回、作業員が各家庭を訪問し検針データを計測していたが、スペース蛍で遠隔から1時間に1回の頻度で自動計測することで、従来の720倍もの精緻なデータの把握が可能になる。これによりガスの使用量が可視化され、ガスボンベの交換タイミングを最適化することができる。配送効率も飛躍的に向上するため、オペレーションコストが大幅に削減される。
スペース蛍には、ソラコムが提供するIoT向けデータ通信サービス「SORACOM Air for Sigfox」が使われている。
ニチガスはセルラー系も含めて様々なネットワークを検討したが、「機能を必要最小限に絞り込むと送信するデータ容量も小さくなり、低消費電力かつ少ペイロードで安価なSigfoxが適していた。従来のNCUにありがちな無駄を省きたいという我々の考えに、Sigfoxの仕様がドンピシャだった」と執行役員 エネルギー事業本部 情報通信技術部長の松田祐毅氏は振り返る。
Sigfoxには、地下やパイプシャフト(給排水管やガス管を通すスペース)のようにカバーすることが難しいエリアがある。ニチガスでは、そうしたエリアについてはLTE-Mなど他の通信規格を補助的に利用することを検討しているが、SORACOM Airは、プラットフォーム上でセルラーやLPWAなど複数の通信規格あるいは複数の通信キャリアの回線を統合管理できることも採用の決め手になったという。
KCCSでもSigfoxの電波が届きにくい場所に対し、必要であれば個別に基地局を設置するなどの対応を取っている。
「KCCS1社に相談すれば最適化できるのもSigfoxの強み」とソラコム セールスマネージャーの滑川直人氏は話す。
2分間でメーターへの設置完了 都市ガスにも「スペース蛍」展開スペース蛍の設置作業は今年2月から始まっており、2021年3月までに約85万件すべてのLPガスユーザー宅への導入を完了する計画だ。
短期間での大規模な設置を可能にするため、ニチガスとソラコムはデバイスの設計にもこだわっている。
スペース蛍は、ガス管に本体を結束バンドで固定する。その際、より短時間で固定できる方法を追求した結果、たどり着いたのが蛍のような形状だったという。取り付け作業そのものは2分程度、1件あたり5分もあれば設置作業は完了する。
ニチガスではLPガスに続き、約41万件のユーザーがいる都市ガスにもスペース蛍を順次導入する予定だ。数年以内には、スペース蛍を通じて、100万件を超えるユーザーからのビッグデータがニチガスの元に集まることになる。
実は、遠隔検針はニチガスのDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みの第1歩にすぎない。その先に描いているのが、エネルギー業界全体を巻き込んだ業務最適化の実現だ。
エネルギー業界においても人手不足は深刻な課題となっており、特に検針データの計測を行う作業員や、LPガスの配送を担当するドライバーの確保に各社とも頭を悩ませている。
ニチガスでは、ソラコムと共同開発したプラットフォーム「ニチガスストリーム」上で、多様な通信データを統一された規格のデータに変換。そのデータを他社の基幹システムとAPI連携することで、会社の垣根を超え、配送業務のシェアリングによる効率化の実現を目指している。その際、エストニアの暗号認証技術「X-Road」やプライベートブロックチェーンを用いることで、データの匿名性や整合性、互換性を保証するとともに、改ざんや不正アクセスを防止する。
図表 各社の基幹システムとのAPI連携
また、ガスだけでなく電気にも展開することで、「各家庭の利用状況や消費機器に合わせて、近い将来、時間単位でガス会社や電気会社を変更し、常に最も安いサービスを選択できるようになる可能性がある」(松田氏)という。
2022年には「ガス導管事業法的分離」が予定されており、電力業界と同様、ガス業界でも競争が激化すると見られる。変革の時期を迎えているエネルギー業界で、Sigfoxが重要な役割を果たすことになりそうだ。
<お問い合わせ先>
京セラコミュニケーションシステム株式会社(KCCS)
URL:https://www.kccs-iot.jp/service/