――製造業ではIoTの導入が進んでいますが、失敗するケースもよくあるようです。
渡部 「IoTを入れたけど何の役にも立たない。データだけが溜まっている」という失敗は確かに多いです。その多くはトップダウンでIoTの“導入ありき”で進めたものですね。まず現場の課題を見つけてから、それを解決する手段としてIoTを持ってくるという順番で考えれば失敗は減ると思います。
――現場を無視したIoTはうまくいかないということですね。
渡部 ただその一方で、現場からのボトムアップで、果たしてうまくやれるかというと、これも問題なのです。現場の発想が起点にある点は日本の製造業の強みではあるのですが、それだけでIoT技術をしっかり活用できるわけではありません。IVIとしては、トップダウンとボトムアップ両方の視点で日本の製造業がIoTにしっかり取り組めるようにするのが目標の1つにはなっています。
中小企業の技術を日本で共有――日本の製造業の未来については、どういった姿を思い描いていますか。
渡部 多様な製造業のプレイヤーが活力をもって生き残れるような世界を目指しています。製造業の生産性向上の話になると、とかくロボットの導入など無人化の方向に話にいきがちです。
しかし、無人化ばかりを推し進めると欧米と同じようなモノづくりになる。日本の強みは高い技術力を持った中小企業が多くあることですが、それが失われかねません。
実際、製造業でも中小企業の廃業が相次いでいます。ですから、華やかさは欠けるかもしれませんが、あらゆる規模の製造業と連携することで、他国よりも競争力が高められたらいいと思っています。
――具体的にどのように中小企業の力を活かしていこうとしていますか。
渡部 最近は1社で製造の全工程をやりきる時代ではなくなっていまして、例えばEMS(電子製造受託サービス)なども盛んです。
――EMSとは企画から出荷までのサプライチェーンにおいて、上流の企業が製造工程の一部あるいは全部を生産委託する一方で、下流の企業も複数の企業から製品・サービスを受注できるようにする考え方ですね。
渡部 我々はEMSなどの考え方を発展させ、工程を細かく分解して、複数の企業が連携して携われる状態を目指しています。これにより、それぞれの企業が持つ強みを、自由自在に組み合わせたものづくりを実現したいのですが、独自の非常に高度な技術を持っている中小企業でも、普段取引のない企業が形成しているサプライチェーンの輪にはなかなか入っていけないのが現状です。
――何が課題となっているのでしょうか?
渡部 物理的な輸送の問題もありますが、情報の連携がうまくできないことが大きいです。
多くの製造業向けのサービスやアプリケーションはプラットフォームの一部として提供されます。
ただ、一口に製造業といっても多岐にわたるため、それぞれの業種・業態に特化したプラットフォームが林立しています。そのため、アプリケーション間、プラットフォーム間のインターフェースが合わずにデータ連携ができないのです。
例えば、部品の表面処理が上手な企業はいろんな製品で需要がありますが、普段付き合いのないような企業とは、進捗情報の共有もままならない。工程の管理でも一気通貫でできず、非常にロスがでる。
そのためせっかくの技術が日本全体で活かせてないケースが多いのです。また、セキュリティを気にするあまり、自社の情報はなるべく外部と連携したくないという企業も多いですね。
本来は他社にお願いしたほうが効率のいい協調領域は切り離し、競争領域に専念すべきですが、そもそも競争領域と協調領域を整理しようとしている企業も多くありません。
今後は各中小企業が持っている技術を日本全体で共有できるような環境が必要になります。IVIとしてもデータ構造の標準化や相互接続の推進をしています。