屋内のヒト・モノの居場所や状況を検知するには、センサーデバイスの装着やカメラの設置が不可欠と考えている人が多いのではないか。しかし、Wi-Fiアクセスポイントを設置するだけで測位やセンシングを実現できる技術がある。Origin Wirelessの「WirelessAI」だ。Wi-Fiの電波反射データ(CSI:Channel State Information)を活用し、空間内の測位やセンシングを行う。
仕組みは次のようなものだ。
Wi-Fiなどの無線通信に使われている電波は、送信元から受信先まで届く直接波以外に、建物や構造物の影響を受けながら届く遅延波がある。このように複数の経路を通って電波が届く現象をマルチパス(多重波伝播)と呼ぶ。
従来のWi-Fiはアクセスポイントと端末がそれぞれ1本のアンテナで通信を行っていたため、マルチパスによって後から届く電波は通信速度の低下などの問題を引き起こしていた。しかし、かつては“厄介者”扱いだったマルチパスも、今では複数のアンテナで複数の信号を受け取るMIMOが実用化され、積極的に活用されている。
WirelessAIもマルチパスを活用するものだ。空間内で何も起きなければマルチパスも変化しないが、物体の位置が変わることでマルチパスも変わる点に着目。CSIを独自のアルゴリズムで解析することで、マルチパスの変化からヒトやモノを検知したり、位置を推定する。
WirelessAIは、空間内の物体が動くとマルチパスも変化する特性に着目している(出典:Origin Wireless Japan)
このTRM(Time Reversal Machine)技術は米メリーランド大学のレイ・リュー教授が発明したもので、学内ベンチャーとして2012年にOrigin Wirelessを創業した。メンバーはリュー教授の教え子が中心で、主にR&Dを担当する。日本法人のOrigin Wireless Japanは、同技術に関心を持った現・代表取締役の丸茂正人氏が2017年に設立、国内における商用化に取り組んでいる。
図表 「WirelessAI」のシステム構成
センシングをより賢くWirelessAIの技術的ポイントは、CSIから屋内状況を把握するためのアルゴリズムにあるが、これには基礎アルゴリズムと応用アルゴリズムの2種類がある。
CSIの変化から何が起きているかを把握するのが基礎アルゴリズムで、現状はモーション検知や呼吸検知、位置検知が可能となっている。一方、この検知した結果により具体的な価値を創出するのが応用アルゴリズムで、在不在検知や室内行動検知、睡眠状態検知、侵入検知などがある。
基礎アルゴリズムや応用アルゴリズムの単体利用、あるいは組み合わせによって、様々なサービスの提供が可能になる。