IoTプロジェクトを推進する担当者には、どのような知識とスキルが必要なのか。
野村総合研究所(NRI)の上級コンサルタントで、ICTメディア・サービス産業コンサルティング部テクノロジーグループのグループマネージャーを務める前原孝章氏は、次の3つを挙げる。
1つめの要素は、「IoTがもたらす経営上のインパクトを理解している人」だ。ある特定の現場課題の解決で終わらず、業務プロセスや事業運営にIoTを恒常的に組み込むなど「IoTで何ができるか、それが自社のビジネスにどう影響するか、その重要性を理解している人が必要」という。
2つめは「現場の業務を幅広く知っている人」だ。
必要なデータを確実に計測できるセンサーがあっても、実際にそれを工場等の現場に付けられるのか、作業の邪魔にならずに運用し続けられるかはまた別の話だ。「現場を理解したうえで『ここなら付けられる』と言える人、現場で使いやすいように『この形式でデータを取ろう』と言える人がいないと机上の空論で終わってしまう」
そして3つめがICTの知識だ。
通信機器やクラウド、アプリに関する幅広い知識はもちろんのこと、必要なデータを取得するために最も効果的な手法を提案できる実践的なスキルが欲しい。例えば、工場や店舗内の人の動きを知るためにあちこちにセンサーを取り付けるのではなく、カメラで映像を撮って解析するほうが簡単といった具合だ。
野村総合研究所(NRI) 上級コンサルタント ICTメディア・サービス産業コンサルティング部
テクノロジーグループ グループマネージャーの前原孝章氏
IT企業からの引き抜きもこのうち先に挙げた2つは、経営課題と現場を知る社内人材の登用が基本となろう。一方、ITスキルについては外部リソースの活用が不可欠だ。SIer等の支援を請うだけでなく、新たな人材の採用も検討する必要がある。
というのも、中長期視点でIoT活用やデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める場合、最も変化を求められるのがIT部門だからだ。これまでは社内だけを考えていればよかったIT部門も、今後は図表1のようにサービス提供先が顧客やパートナーへ広がる。さらに、AIやロボティクスなども含め、幅広い技術を取り扱わなければならなくなる。ガートナーの池田氏は「今までと同じ人、体制ではできない」と話す。
図表1 IoTの位置付けを理解する
ガートナー ジャパンがユーザー企業のIT部門を対象に昨年実施した調査によれば、半数以上の企業が外から人材を採用しており、IoTを推進している企業ほどその傾向が強いという。IT技術者の調達先は、SIer等のITベンダーだ。池田氏は「すでに売り手市場。さっさと良い人を引き抜いたほうがいい」と語る。
日本では、IT技術者の実に72%がベンダーに属している(図表2)。絶対数を増やすための人材育成は不可欠だが、即効性のある対策はやはり、ベンダーからの引き抜きだ。
図表2 日本と米国の情報処理・通信に携わるICT人材