――デジタル変革が加速しているなか、HPE Arubaは今、どういった方向に進もうとしているのでしょうか。
田中 HPE全体として狙っているのは、昨今注目の「インテリジェントエッジ」の世界です。
元々メインフレームという集中型だったコンピューティングアーキテクチャは、次にクライアント-サーバーの分散型となり、それからモバイルの台頭とともにクラウドが登場して集中型に戻りました。それが今、再びエッジにインテリジェントが移行されようとしています。
クルマの自動運転が一番分かりやすい例ですが、エッジからデータをクラウドに送信して解析し、その結果をまたエッジに戻すのでは、リアルタイム分析が必要な自動運転は困難です。なるべくエッジに近いところでコンピューティングする必要があります。
HPEは、企業内でもIoT環境においては、自動運転に近いエッジコンピューティングが必要と考えています。そこで重要になるのが、従来型の有線LAN、無線LAN、ネットワークセキュリティといった「企業インフラ」の在り方に対する抜本的な改革です。
ただ、我々のソリューションは、煩わしい論理設計や物理設計の見直しをお客様に要求しません。「抜本的な改革」と言っておきながら、何も見直さないというのは一見矛盾しているようですが、それこそが我々のコアテクノロジーである、ロール(役割)ベースのネットワークアーキテクチャです。HPは今後の企業インフラではArubaのロールベースアーキテクチャが最も重要と感じ、Arubaを買収したのです。
――HPがArubaの買収を発表したのは2015年3月のことでした。HPはその後2015年11月にPC・プリンター事業のHPとエンタープライズ事業のHewlett Packard Enterprise(HPE)に分社し、ArubaはHPE傘下となっています。
田中 HPとArubaはIoT時代の企業インフラの在り方について同じビジョンを共有していましたが、買収の際、「Arubaの文化は貫き通す」という合意も得ることができました。これは単にArubaブランドを残すだけでなく、製品やソリューションの開発はArubaの経営陣が引き続きリードしていくという合意になります。
一緒になって変わったのは、やはりビジネスのスケールです。買収当時、Arubaはすでに黒字化していましたし、キャッシュフローも潤沢でした。しかし、そうは言ってもHPが持っているような従来型の大手顧客はなかなか獲得できていませんでした。以前のArubaの顧客は、大学やIT企業などが中心。それが今ではボーイングやマクドナルド、シェル石油など、伝統的な大企業にも採用されています。
また、IoT時代の企業インフラでは、スイッチやセキュリティ用のサーバー、AIなども必要になると考えていましたが、Aruba単体ではそこまで開発資金は豊富ではありませんでした。