「SigfoxのようなLPWAには大きな可能性がある」――。ユビキタスコンピューティングやTRONなどで世界的に著名なIoT界の“レジェンド”である坂村健・東洋大学 情報連携学部(INIAD)学部長。「KCCS IoT Conference 2019」の基調講演を務めた同氏は、Sigfoxにこのように期待した。
坂村氏によれば、IoTが社会を大きく変えられるかのカギは「オープン性が握っている」。IoTの「I」は、真に「Internet」の「I」になっているか?――。誰でも、何とでも、つながれるかが大切だという。
ただし、「オープンと言っても、誰にでも、何にでも、オープンでいいわけではない。単なるセキュリティを超えた、ガバナンス管理が必要になる」。ガバナンス管理とは、不正に「使わせない」だけではなく、「適切に使わせる」ことを意味している。
また、「IoTに必要なのはより軽いエッジノード」とも坂村氏は指摘。ガバナンス管理を含む重い機能はクラウドに「外部化」すべきだとした。
そして、こうした在るべきIoTの世界を実現していくうえで、あらゆるモノをクラウドに低消費電力・低コストでつなげられるSigfoxには、大きな可能性があるというのである。
東洋大学 情報連携学部(INIAD) 学部長の坂村健氏
続いて行われたKCCSのセッションでは、まず代表取締役社長の黒瀬善仁氏が登壇し、LPWAとSigfoxを取り巻く市場環境の変化を説明した。
ちょうど先週、米国に出張して現地のアナリストなどと議論してきたばかりだという黒瀬氏によると、米国のIoT市場では次のような変化が起きているという。米中摩擦の影響によるNB-IoTの普及鈍化、携帯電話事業者の5Gへのリソース集中などである。
KCCS 代表取締役社長 黒瀬善仁氏
こうしたなか、米国では以前は必ずしもSigfoxへの注目度は高くなかったが、「この1年間でかなり肯定的な評価に変わっている」という。携帯電話事業者が彼らのメインストリームである5Gに向かうなか、Sigfoxのチャンスが広がっているのである。
そして国内では、Sigfoxのサービスエリアは人口カバー率94%まで拡大。サービス発表当初、約40社だったパートナーの数も、425社にまで増えている。黒瀬氏は「Sigfoxが本格的に立ち上がる準備はすでにできている」と強調したうえで、「Sigfoxは今後社会を支えるインフラになる」と力を込めた。
広域エリアカバーと多彩なパートナーがSigfoxの強み
KCCS 取締役 LPWAソリューション事業部 事業部長の松木憲一氏は、Sigfoxの2つの新たなソリューションを紹介した。
まずは、屋内設置用の超小型基地局「Access Station Micro」である。1月からレンタル提供を開始しており、ユーザーが自由にSigfoxネットワークを構築できる。
KCCS 取締役 LPWAソリューション事業部 事業部長 松木憲一氏
このAccess Station Microは、サイズが186×159×108mm、質量が450gと超小型・超軽量でありながら、見通し1~2㎞のカバーが可能。初期費用は9800円、ランニングコストは年額3万4800円と安価に利用できる。
松木氏は、「まだSigfoxのエリアになっていない地域や、ビル内のエレベーターや地下室などでも、Sigfoxが活用できるようになる」と説明。「我々の検証では、10階建てくらいの中規模ビルであれば、1台でエリア化できる」とした。
新たに提供が開始された超小型のレンタル基地局「Access Station Micro」
2つめが、Sigfoxで利用できる多様な測位ソリューションだ。
Sigfoxでは、(1)そのデバイスが利用されている国・地域の情報を提供する国別電波規定認識の「Monarch」、(2)Sigfox基地局の位置と電波強度から測位する「Atlas Native」、(3)さらにWi-Fiアクセスポイントの位置情報も使う「Atlas Wi-Fi」が利用可能になっている。そして現在、(4)Sigfoxをビーコンとして利用する「Atlas Bubble」も準備中だという。
「物流分野や建設現場での資材・機材管理などでは、GPSほどの精度はいらない。その代わりに数年間運用できる低消費電力と低コストなデバイスが欲しいという要望にSigfoxは応えられる」
Sigfoxで利用できる測位技術