およそ30年前の1984年には世界第1位の生産量(1282万トン)を誇った日本の漁業。その勢いは急速に陰り、生産量は2015年に4割以下の469万トンまで落ち込んだ(農林水産省 漁業・養殖業生産統計)。
一方、世界の漁業生産量は、同じ30年間で2倍以上に伸びた(8786トンから1億9977万トン)。実は、世界的に見ると漁業は“成長産業”なのだ。漁業先進国は収益性も高く、例えばアイスランドにおける漁業者1人当たり生産量は225トン。日本の27トンとは大きな開きがある。
世界と我が国の顕著な違いが、養殖業の発展だ。世界では養殖生産が漁業生産量全体の約5割を占めるが、日本はわずか2割。実は1980年代から日本の養殖業の生産量はほとんど増えていない。
養殖業をIoTで成長産業に漁業が衰退した要因は、海外勢との競争激化や温暖化による環境変化、就業者の減少や高齢化など様々あるが、ICT活用の遅れもその1つだ。日本では未だに水温や栄養塩(リンや窒素等のことで、低下すると漁獲量の低下を招く)の継続的な調査が十分に行われておらず、経験や勘に頼り獲りに行く漁業スタイルが続いている。海の環境が変化するなか、漁獲量の安定化は難しくなる一方だ。
そこで期待されるのがIoTである。センシング技術によって漁場の環境を可視化し、経験・勘に頼ってきた漁業の検証や改善、そして次世代への継承に役立てる。そんな“見守り育てる”漁業が全国で広がり始めた。
先行しているのが、養殖業だ。
2016年3月に宮城県東松島市の牡蠣・海苔の養殖漁場で、NTTドコモらがセンサーと通信モジュールを搭載した「ICTブイ」を使った遠隔モニタリングの実証実験を開始した。2017年10月から「ICTブイソリューション」サービスとして販売を始め、現在では佐賀や熊本、福岡、愛知、岡山等の海苔養殖、長崎県対馬の真珠養殖等にも導入されている。
NTTドコモが宮城県東松島市等へ提供しているICTブイ(Ⅰ型)。水温等を自動計測し、
3G回線経由でクラウドへデータを送る。スマートフォンアプリ「ウミミル」(右)からデータを閲覧できる。
ブイは、市販のフロートを使うことで漁協でも交換部品を調達しやすくするなど、構造に工夫を凝らしている
NTTドコモ 地域協創・ICT推進室 第二・第一担当 担当課長の山本圭一氏は、生産者からの評価について次のように話す。
「これは漁師の方が欲しいものを形にしていった“現場から作ったサービス”。だから、最初は『こんなの見れても』という漁師さんも多いが、使ってみると、これはいいと言っていただける」