取引先へ向かうクルマの中で、オフィスにいる上司や同僚とビデオ会議をしながら商談に向けた最終確認をする。両手はハンドルではなく手元のタブレット端末を操作し、資料をチェックしながら議論を交わす。打ち合わせが終わったら、到着までは映画を見てリラックスしよう――。
10年後、クルマ内の過ごし方はそんなふうに変わっているかもしれない。車内空間は家のリビングやオフィスに限りなく近い「第3の生活空間」になる。
“部屋がそのまま動いたら”を体現した近未来モビリティ「Honda 家モビ Concept」のイメージ
これを可能にするのが、完全自動運転とコネクテッドカーの2つの要素だ。人は運転操作から解放され、さらに様々な情報へのアクセスと自由なコミュニケーションが可能になる。自動車メーカーは今、そんな未来を我々に提案し始めている。
メルセデスベンツ傘下のスマートが発表した自動運転コンセプトカー「smart vision EQ fortwo」。
カーシェアリングでの使用を想定しており、各種の通信/コミュニケーション機能を搭載。
自動走行するEVであるためハンドルもペダルもなく、移動時間を自由に使える
クルマをIoT化する通信技術こうした世界を実現するには、クルマが様々なセンサーと通信機能を備え、車両周辺の状況を認識し、かつ外の世界と密なコミュニケーションを取れるようにする必要がある。
そこではどのような通信技術が使われるのか。
総務省が2016年12月から2017年8月まで開催した「Connected Car社会の実現に向けた研究会」では、コネクテッドカーを実現する無線通信技術を図表1のように整理している。
道路に設置された通信機とクルマが通信する【V2I(Vehicle to Infrastructure)型】、クルマ同士が直接通信して情報を交換する【V2V(Vehicle to Vehicle)型】、そしてLTEや5G、IoT無線を活用する【携帯電話型】だ。
図表1 クルマが利用する無線システム
これらのうちV2I型については、ETCサービス等で用いられてきたDSRC(Dedicated Short Range Communications:狭域通信。5.8GHz帯を使う)を活用したITSシステムの高度化が進められている。ETCは従来、高速道路料金の収受に使われてきたが、2015年には渋滞回避や安全運転支援等の情報を提供するETC2.0に発展。さらに今後は、ITSで得られたデータを民間に展開し、車両の運行管理や街中での駐車場料金支払など、多目的利用が進む見通しだ。
V2V型については車載レーダーシステムや700MHz帯を使った車車間通信によって衝突回避や被害軽減ブレーキ操作を行う安全運転支援システムの開発が進んでいる。
こうした路車間・車車間通信によって、見通し外の周辺状況検知や協調型の運転支援が可能になる。現在はトヨタ自動車がドライバー向けの安全運転支援システム「ITS Connect」として提供しているが、将来の完全自動運転にもつながる技術だ。