「10月1日の省令改正を受け、来年1月にはARIB(電波産業会)の標準規格が固まる見込みで、法的にはsXGPが利用できるようになる。それに向けて製品の相互接続試験などの準備を急いでいる」
LTE(TDD方式)に準拠した新しいデジタルコードレス電話規格「sXGP」――。その標準化を行うXGPフォーラムの入部良也事務局長は、sXGPの現状をこう説明する。
sXGPは、PHSやLTE互換のBWA(広帯域移動無線アクセス)システム「AXGP」の標準化を手がけてきたXGPフォーラムが「自営PHS」の後継規格として策定したもの。
総務省・情報通信審議会(情通審)で、昨年7月からsXGPの導入に向けた検討が始まり、今年3月に技術的条件が答申された。省令改正はこれを受けて実施される。
XGPフォーラムでは2018年の商用化を目標に、sXGPを事業所用コードレスとして利用するための技術仕様の策定や機器の接続試験手法の検討を現在進めている。
LTEスマホをそのまま子機に国内で現状使われているデジタルコードレス電話の無線規格には「DECT」と「自営PHS」の2つがある。
このうちDECTは2015年度に526万台が出荷された主力方式だが、日本では運用チャネルが限定されるため、主として家庭向け製品に採用されている。
自営PHSは主に事業所用コードレスで使われ、2015年度に61万台が出荷された。ただ、キーパーツを共通利用する公衆PHSの利用者減少に伴い、製品供給に不安が生じている。公衆PHS帯域のLTEへの転換も議論されるなか、sXGPには根強い事業所用コードレス需要の受け皿としての役割が期待されている。
自営PHSやDECTで利用されている1.9GHz帯の自営無線バンド(1893.5~1906.1MHz)は、移動通信システムの標準化団体3GPPが定めたLTEの国際周波数帯の1つ「Band39」に包含されている(図表1)。Band39は、中国の最大手携帯キャリア、中国移動がLTE(TDD方式)で利用しているため、6以降のiPhoneをはじめ、日本で使われているスマートフォンやデータ通信端末の多くがサポートしている。
図表1 sXGPが導入される周波数帯(1.9GHz帯自営無線バンド)
sXGPはこのBand39のLTEと仕様を極力共通化することで、これらの端末をデジタルコードレス電話の子機として利用することを狙っている。専用子機についても、世界市場で広く普及するLTE携帯電話とデバイスを共通化することで、長期にわたって安価に供給可能になる。
とはいえ、免許不要で利用できるデジタルコードレス電話は、携帯電話と比べて送信出力などが制限される。市販のスマートフォンをそのままsXGPの子機として本当に利用できるのだろうか――。
情通審が取りまとめたsXGPの技術的条件では、①子機の最大送信出力を携帯電話の200mWの半分100mWに抑える、②自営PHSへの悪影響を避けるためのキャリアセンスの実装、③目的の周波数帯の外に漏れ出すスプリアス(不要発射)の抑制の3点で、LTE携帯電話より厳しい規定が設けられている。
XGPフォーラムによると、sXGPでは親機(LTE基地局)側で端末の送信電力制御やキャリアセンスを実行することにより、端末に手を加えなくても、①と②の要件をクリアできるという。③についても大半の端末は「今回の規制値より高い性能をすでにクリアしている」と入部氏。このため、端末メーカーが技術基準適合証明・工事設計認証(技適)を申請すれば、市販のLTE端末の多くがsXGP端末として利用可能になる見込みだ。