「通信はIPアドレスをベースに行うもの」という、インターネットの常識が変わるかもしれない。
IPネットワークは「欲しいデータ/コンテンツがある場所」、つまりIPアドレスという「住所」をベースとした「1対1」の情報伝達を目的として作られ、進化してきた。そもそもサーバーや端末が移動することや、「1対多」「多対多」の通信などは想定していなかった。電話網と根本的な設計思想は変わらないのだ。
しかし、ユーザーの利用形態は以前から、その設計思想のスコープを超えている。常に移動するモバイルデバイス、1対多・多対多でコミュニケーションするSNS、多数のユーザーが同時視聴するビデオ配信――。いずれも、IPネットワークが生まれた時には想定されていなかったものだ。
さらに間もなく、膨大な数のモノとモノ、モノとヒトが情報を伝達し合うIoTの世界がやってくる。こうした時代に、IPアドレスという場所を指定した通信は非常に無駄が多い。
すでに見えていた「IPの限界」実は、ネットワークの仕組みを根本的に変える必要性があることは、2000年代の終わりから唱えられてきた。IPネットワークに代わる新たなネットワークとして構想された1つが「情報指向ネットワーク」(Information-Centric Network:ICN)だ。求める情報の「住所」ではなく、欲しいデータ/コンテンツそのものを示す「名前」を指定して、ネットワークの中からそれを取得する通信技術である。
「このデータください」とリクエストすれば、持っている人が手を挙げ、最も近い人からもらえる─。IP通信の制約から解き放たれた、そんな効率的なネットワークを実現しようというのがICNの考え方だ。
そもそもなぜIPではいけないのか。
IPネットワークは、情報を取得するために必ずサーバーの位置(IPアドレス)を調べてからアクセスしなければならない。DNSサーバーに問い合わせてURLにあるホスト名をIPアドレスに変換し、多数のルーターを経由してサーバーに到達し、情報を入手する。
問題点は、端末やサーバーの位置が変化すると、ルーター間での経路情報のやり取りが複雑化し、経路制御のための通信が増加することが1つ。もう1つが、必ず“最終目的地”のサーバーと端末間で通信しなければならないため、大容量コンテンツが増えると帯域が逼迫しやすいことだ(図表1の左)。
図表1 情報(コンテンツ)指向ネットワーク技術(ICN/CCN)[画像をクリックで拡大]
この問題を解決するため、サーバーをユーザーに近い場所に分散配置するCDN(Content Delivery Network)や、端末間で直接やり取りするP2P通信などが開発されてきたが、根本的な課題は変わらない。IoTが普及し、4K/8K映像の視聴も増える今後を見据えると、IPネットワークの今後には大きな不安がある。