クラウドを積極活用するための基盤となる次世代の企業ネットワークを構築するには――。
そのキーポイントとして両氏とも、インターネットの使い方を見直すべきだと強調する。各拠点を結ぶWANとインターネットを、センター拠点/データセンターの1カ所でつなぐ「一極集中型」の従来構成に固執せず、拠点から直接インターネットに接続し、従来型のWANとインターネットを使い分ける「ハイブリッド型」への移行を薦める。
図表1 一極集中型のイメージ(センター拠点でインターネットに接続) |
ITRの甲元氏は、拠点やモバイルからのインターネット向け通信を、WAN-センター回線経由で迂回させる現在の形態について「使い勝手が悪く、ユーザーの利便性を無視している。拠点もモバイルもすべてインターネットに直接つなげばいい。適切に管理する方法もある」と話す。
図表2 ハイブリッド型のイメージ(各拠点からインターネットに接続) |
ガートナーの池田氏も、業務アプリケーションやデータが複数のクラウドやオンプレミス設備に分散し、それを利用するユーザーも社外で業務を行うのが当たり前になった現在、「WANが内、インターネットが外という考え方はもう辻褄が合わない」と指摘する。「インターネットの中に自社のITリソースをどのように配置し、それをつなぐネットワークをどう作るかという『インターネットオリエンテッド』の考え方にならなければいけない」という。
WAN全廃で成果あげる先進例も実際に、そのような変革によって成果を上げる企業も出てきている。甲元氏が紹介するのが次の2例だ。
4000もの店舗を展開するある企業は既存のWANを廃止して、全店舗・拠点をインターネットに接続し、パブリッククラウド上の業務アプリを利用する形態に移行した。
店舗の出退店を迅速に行うことがその目的だ。出店を決めたら1カ月後には開店するというスピード経営を実現するためには、クラウドにアクセスするためのネットワークを可能な限り早く準備する必要があった。
従来型のWANでは、回線を手配してからWANの設定変更作業などを経て実際に使えるようになるまで、ゆうに数カ月を要してしまう。だが、インターネットアクセス回線の調達だけなら、期間は大幅に短縮できる。予め複数のブロードバンドルーターを本社に用意しておき、それを店舗に持ち込んで回線をつなぎ、簡単な設定を行えば準備は完了だ。なお、開店までに固定回線の開通が間に合わない場合には、LTE通信ができるWi-Fiルーターで当座をしのぐケースもある。
さらに、WANの運用保守費用が一掃されたことで、コスト面でも大きな効果を上げている。
もう1つの例は、国内に約200拠点を持つ製造業だ。
こちらも全拠点をインターネットに直接つなぎ、クラウド上の業務アプリを利用する形態に移行した。甲元氏によれば、このプロジェクトの推進担当者がイメージしたのは「インターネットカフェ」だという。オフィスにはインターネット/クラウド上のリソースを利用できる環境さえ用意すれば十分という考え方で変革に踏み切った。
加えて、社員が利用するデバイスをすべてタブレット端末に変更する方針を固めており、将来的には全社員が端末からLTEで直接インターネット/クラウドに接続して業務を行う働き方を目指しているという。LANも撤廃する計画なのだ。
ビジネス上の要件と、社員が業務を行うために必要かつ適した環境を実現することを最優先に、これまでの常識に囚われないネットワークの使い方を検討する――。そうした結果、このような大胆な策を採る企業も少数ながら出てきている。
もちろん、こうした劇的な変革ができる企業は少ないだろうが、甲元氏は「自らのビジネスにどのようなネットワークが最も適しているのか。既存環境は別にして、ゼロベースで徹底的に考えることが必要」と話す。