「エコシステムをどう作っていくかが、企業のIoT活用を広げる上での本質的な問題ではないか」――。日本ヒューレット・パッカード、MVNO/IoT営業部長の福本靖氏は、講演の序盤で、こう指摘した。
大手マーケティング会社が行った企業のIoTの導入状況に関する調査では、IoTを業務変革に活かしている企業はまだ全体の12%ほど。過半の企業では取り組みが全く進んでいないか、極めて限定的だという。
福本氏は、その要因を過去のインターネットに関する著作や調査を踏まえて論じ「IoTの本質はビジネスモデルにある。普及を進めるにはインターネットと同様、“お皿の上”に乗せた情報をどう活用していくかが重要だ」と述べた。その鍵となるのが「エコシステム」の構築だというのだ。
これは実際にはどのようなものになるのか――。具体例として福本氏が紹介したのが、フランスの大手建設・メディアグループ、ブイグが立ち上げたIoT通信サービス会社、オブジュニアス(Objenious)の事例である。オブジュニアスはブイグ傘下のフランス第3位の通信事業者ブイグ・テレコムの子会社である。
オブジュニアスは今年2月にLPWA(小電力広域無線)技術の1つ、LoRaWANを用いたIoT向け通信サービスを開始、年内にフランス主要地域をカバーするネットワークを整備する計画だという。
オブジュニアスが展開しているIoT通信サービスのイメージ |
オブジュニアスのビジネスモデルは、自社が構築した無線インフラをパートナー企業に提供、料金収入を得るというもの。整備コストの安いLoRaWANを用いて安価な通信料金を実現した。
フランスでは、オブジュニアスのサービスを利用して、(1)街灯の遠隔制御、(2)ゴミ箱にゴミの量を測るセンサーを取り付け収集を効率化するシステム、(3)地面に設置したセンサーで入出庫を把握し駐車場の管理を効率的に行うスマートパーキングなどの実用化が進められている。これらを通じてICTによる快適・効率的な社会生活環境、スマートシティを実現しようというのだ。
福本氏が、オブジュニアスのビジネスモデルのもう1つの大きな特徴としてあげたのが、無線ネットワークだけでなく「IoTプラットフォーム」をあわせて提供することで、さまざまなプレイヤーがアプリケーション・サービスを開発・提供できるようしている点である。IoTプラットフォームは、デバイス管理や、データの蓄積・分析、セキュリティ対策などの共通の機能を提供し効率的なアプリケーションやサービスの開発・提供を実現するものだ。
「これによりオブジュニアスは“お皿の上”にいろいろな美味しい料理が乗ってくるようにしている」と福本氏は解説する。IoTプラットフォームという「横串」を通すことで、エコシステム、そして多様なアプリケーションが実現されるというのである。
IoTプラットフォームによる事業モデルの変化 |
従来、M2M/IoTではそれぞれの企業が個別にシステムを開発する垂直型のビジネスモデルがとられており、技術・ノウハウを持つ企業、一定のコストをかけてもペイできるアプリケーション以外は展開が難しかった。こうした世界が大きく変わりつつあるのだ。オブジュニアスは、IoTプラットフォームに、「HPE Universal IoT Platform」 を採用している。
さまざまなデバイスネットワークに対応するHPE Universal IoT Platform |
HPEが製品で力を入れている点としてさまざまなネットワーク、デバイスを、一元的に運用できるようにすることがある。これによりIoT通信の適用領域を大きく広げられるという。
例えば、LoRaWANは移動しながらの運用にはあまり向いていないとされており、携帯電話に比べるとサービスエリアも限定される。Universal IoT Platformを用いることで、料金が安価なLoRaWAN、サービスエリアが広い携帯電話を組み合わせて、全体のコストを抑えつつ幅広いアプリケーションに対応することができるのである。Universal IoT Platformを用いることでLoRaWANとSIGFOXといった性格の異なるLPWAサービスを組み合わせて利用することも可能になるという。
Universal IoT Platformは、オブジュニアス以外にも多くのIoTサービスに用いられている。その1例として福本氏はコネクティッドカーの事例を紹介した。車は様々なデータを持っており、これを有効活用することで、快適な運転や安全を実現すると同時に、多くの企業に新しいビジネスを生み出す。Universal IoT Platformはその基盤になるというのだ。
HPEのIoTソリューションの全体像 |
HPEは、Universal IoT Platform以外にも、IoT通信分野でさまざまなソリューションを展開している。福本氏は、「デバイス以外はほぼカバーしている」とした上で、今特に力を入れている分野としてエッジコンピューティングを解説した。
エッジコンピューティングとは、従来クラウドで行っていたデータ処理の機能の一部を、よりセンサーデバイスに近い部分で行う手法のこと。HPEでは「早期分析」と「制御」の部分をエッジ側に移し、リアルタイムでデータを処理・分析できるようにすることで、迅速なアクションにつなげられるとしており、これを「シフトレフト」と呼んでいる。右側にあるデータセンター/クラウドの機能の一部を左側のデバイスに近い部分に移すという意味だ。
福本氏は、海外におけるこうしたHPEの豊富な経験を活かし、日本でもIoT活用による企業の業務変革に貢献していきたいと述べ、講演を終えた。