東大・稲田教授「IoTで新価値を創出するには“課題発見”人間が必要」

IoTが産業とビジネスを革新する戦略課題として注目を集め、産官学を上げた取り組みが動き始めている。総務省時代からIoT/M2Mの重要性を提唱してきた東京大学の稲田修一特任教授は「日本企業の変革がかかっている。企業はトップがデータ活用の方針を決めるとともに、新たな人材を登用することが必要」と提起する。

――2016年はIoT(Internet of Things)が大きな焦点となり、人工知能(AI)、ビッグデータなど新たな情報通信技術の登場もあって、ICTで大きな変化が起きようとしています。

稲田 いずれもデータ活用により新たな価値を創造する仕組みであるという点で共通しており、根っこは同じだといえます。

各種センサ等が発展したことで、収集・集積したデータを分析し、実世界のさまざまな事象を従来よりも迅速かつ正確に認識・理解・判断できるようになりました。そうしたデータ分析の結果を実世界にフィードバックして制御を高度化・精密化することが、新しい価値の創出につながっています。

これらのキーワードが注目されている背景には、(1)見えなかったものが見えるようになった、(2)ネットワークを簡単に構築できるようになった、(3)コンピュータパワーが目覚ましく強力になったという3点があります。

(1)の具体例としては、米グーグルが開発した「スマートコンタクトレンズ」が挙げられます。

糖尿病は、血液中のブドウ糖の濃度を表す血糖値が高い状態が続くことでさまざまな合併症を引き起こすとされており、患者は血糖値の管理が必須です。現状、指先を針で刺して採血する方法が採られていますが、頻繁に行うとなると痛みや精神的負担を伴います。

涙に含まれるグルコース値が血糖値と相関があることが明らかになっていますが、血液と比べて希釈なため、少量の涙からいかに感知するかが課題でした。

スマートコンタクトはレンズに高感度センサとコントローラチップ、無線アンテナを内蔵しており、涙に含まれるグルコース値をリアルタイムに測定することで、より簡単に血糖値管理を行えるようになると期待されています。

また、日立製作所の「名札型センサ」は、搭載された赤外線センサや加速度センサなどを用いて人と人の対話の有無や対話時の体の動きなどを感知し、人や組織の活動度を定量化するというものです。

オフィスがにぎやかで活気にあふれた企業ほど業績が好調であるといわれますが、名札型センサでコミュニケーションを活性化し業績改善に役立てる企業も出始めています。

このように、これまで可視化できなかったものを可視化し、集めたデータを分析することで、今まで管理や評価が難しかった事象をマネジメントできるようになっているのです。

月刊テレコミュニケーション2016年2月号から一部再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります。

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稲田修一(いなだ・しゅういち)氏

九州大学大学院修士課程修了(情報工学専攻)、米コロラド大学大学院修士課程修了(経済学専攻)。1979年に郵政省(現総務省)入省。以来、モバイル、ユビキタス、セキュリティ、情報流通など情報通信分野の政策立案や技術開発・標準化業務などに従事。大臣官房審議官を経て、2012年から東京大学特任教授。2015年からコンサルティング業務開始。ビッグデータやM2M/IoTを活用したビジネス変革や価値創造を研究。総務省情報通信審議会専門委員、科学技術振興機構領域アドバイザー、長崎県異業種交流会アドバイザーなどとしても活動

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