業務用でも普及が始まったWi-Fi 7(IEEE 802.11be)と、2028年頃の実用化が見込まれる次世代規格のWi-Fi 8(IEEE 802.11bn)。新たに追加された6GHz帯の効用も相まって、この2世代は、産業分野における無線LANの活用範囲を大きく広げる可能性を持つ。
標準化作業中である11bnの新機能も含めて、Wi-Fi 7/8の工場での使い道と可能性を探っていく。
6以前と7以降の決定的な差
産業領域向けのWi-Fi 7の製品化はまだ初期段階にある。対応端末の普及に伴い、AR/VRやAGV、産業用ロボットなど低遅延通信が求められるユースケースでの活用が進むと期待される。
そこで最重要の機能が「Multi-Link Operation(MLO)」だ。アクセスポイント(AP)と端末の間で複数帯域を同時利用する仕組みである。

東芝 総合研究所 インフラシステムR&D センター ワイヤレスシステム技術開発部 フェロー 足立朋子氏
MLOは複数の周波数を束ねて高速化に使える一方、高信頼・低遅延通信にも使える。東芝 総合研究所 インフラシステムR&Dセンター ワイヤレスシステム技術開発部 フェローの足立朋子氏は、工場Wi-Fiにおける「通信遅延の問題を解決できる」とその重要性を強調。「あるチャネルで干渉が発生しても、別のチャネルですぐに再送信できるので、通信の停滞を防げる」。また、図表1右側のように複数の周波数で同じデータを送る重複通信によって、さらに信頼性を高めることも可能だ。
図表1 MLO(Multi-Link Operation)の利用イメージ
従来のWi-Fiでもマルチバンドを切り替えて使うことはできたが、Wi-Fi 7で実装されたMLOは、APと端末が接続を確立するアソシエーション時に複数チャネルを同時利用するように設定するもの。「周波数ダイバーシティができることが、従来のWi-Fiとの最も大きな違い。遅延対策としてはかなり有効だ」(足立氏)
クアルコムは、異なる帯域を同時並列で動作させるDBS(Dual Band Simultaneous)/HBS(High Band Simultaneous)をWi-Fi 6チップでも実装(端末のHBS対応はWi-Fi 7から)。産業用途向けAP等を製造するサイレックス・テクノロジーがこの機能を活用したAPを製品化している。
DBSは2.4GHzと5GHzを、HBSは5GHzと6GHzを同時利用する機能であり、クアルコムはこれまで端末側にDBSを実装して活用してきた。クアルコムの大津行洋氏によれば、Wi-Fi 7対応製品では、MLOと組み合わせて使用することも可能だ。Wi-Fi 7世代の端末向けチップではHBSにも対応し、この同時並列動作をMLOの活用にも広げている。「制御系や映像監視など信頼性が求められる用途へのニーズで引き合いをもらっている」という。
ローカル5Gに匹敵する信頼性も?
Wi-Fi 7の利点は他にもある。6GHz帯は、2.4/5GHz帯と比べて電波干渉が極めて低い状態にある。日本国内ではVLP(ベリーローパワー)と、屋内のみのLPI(ローパワーインドア)の2つのモードが許可されており、LPIでは従来のWi-Fiと同様の200mW出力が可能だ。
もう1つ、1ユーザーに複数のRU(リソースユニット)を割り当てる「Multi-RU」も、干渉回避による安定性の向上に寄与する。「特定の周波数に干渉が起きている場合、その部分を避けて他の複数リソースを束ねて通信できる。速度を維持しながら干渉を回避できる」(足立氏)。
これらの技術をベースに、免許不要の利便性と、工場という環境を活かせば、5Gやローカル5Gに匹敵する信頼性を実現できる可能性もあると同氏は話す。「関係者以外の立ち入りを制限できる工場なら、干渉源を排除したエリアを作ることは可能だろう。そうしたクリーンな環境なら、セルラー並の通信品質も実現できる。免許が不要で、ローカル5Gと比べて設置の制約が少ないメリットが活かせるはずだ」














