NECが法人向けMVNO事業に力を入れている。業務・情報システムや拠点間ネットワークの構築ビジネスにおいて、モバイル回線も自社で一括して提供することで、システム全体にわたってトータルにSIとサポートを行えるようにするのが狙いだ。NTTドコモ、auのネットワークを利用する法人向けMVNOサービス「Mobile Cloud（モバイルクラウド）」を業種向けアプリケーションや各種端末と合わせて提供し、障害対応やヘルプデスク等のサポートも一括して行う。

背景には、モバイル回線の活用範囲が広がったこと、運用サポートの一元化に対するニーズが高まっていることがある。SI・サービス市場開発本部の企画・プロモーション・調査グループでマネージャーを務める藤戸靖久氏は次のように話す。

「我々はスマートデバイスやVPNルーター、監視カメラ、決済端末、POSなど多様な端末と業種特化のアプリケーションを持っているが、これらを利用するに当たってモバイル回線の需要が高まってきている。しかも、従来は端末とアプリにSIを付けて納品するスタイルだったが、最近は回線も含めたトータルのSIとサポートが求められている」

（左から）SI・サービス市場開発本部、企画・プロモーション・調査グループマネージャーの藤戸靖久氏と傍島実加氏、コンテンツソリューショングループ主任の野中崇史氏

ISDN/ADSLからモバイル回線への置換え進む今や、業務・情報システムをスマートデバイスやモバイルPCから利用することは当たり前となった。また、POSや決済端末、監視カメラ等の据置型端末のネットワークにモバイル回線を利用するケースも増えてきている。固定回線に比べて開通までの期間を短縮でき、かつ端末の設置場所も柔軟に変更できるためだ。

だが、こうした場合に、アプリケーションと端末はSIベンダーから、回線は通信事業者から調達する従来の形態ではいろいろと課題が生じる。ユーザー自身が用途ごとに適切な回線種別・データ通信容量を選んで調達しなければならず、また障害発生時にはユーザー自身で問題の切り分けを行わなければならなくなる。

そこで、SIerであるNECが回線も含めて一気通貫で提供すれば、利用シーンに応じた適切な回線を組み合わせることができ、かつ、保守サポート窓口も一本化され、システムの安定性と保守性の向上につながる。

特に、固定回線の代替としてモバイル回線をWANに使うケースでこのメリットが生きる。ISDN/ADSLのユーザーが、その代替としてモバイル回線を検討しており、そうした置換えにおいて「固定回線と同等の安定性とセキュリティを兼ね備え、かつコストメリットが出ることが決め手になる」（藤戸氏）からだ。

NECはモバイル回線をWANに利用できるVPNルーター「UNIVERGE WA1511」「同WA2611-AP」等を販売しており、これとMobile Cloudの一括提供によって「POSや監視装置といったクリティカルな領域でもモバイル回線への置換えが進んでいる」という。なお、Mobile Cloudには図表1の4種類のプランが用意されており、料金もいわゆる「格安SIM」と遜色ない水準となっている。用途に合わせて最適なプランを選ぶことで、回線費のコストダウンも可能だ。

図表1 データ通信用SIMカードの料金プラン

もう1つ、LTEの普及もこの動きを後押ししている。かつて固定回線の置換えと言えば、WiMAXが候補に挙がることが多かった。ただ、WiMAXはデータ通信容量が無制限という利点があるが、提供エリアが狭く、屋内の通信にも弱かった。一方、LTEはエリアが広く屋内通信にも強い。「業務アプリや用途によって、どの程度のデータ通信容量があればよいかサイジングができるようになってきた。一方の回線でトライして上手く行かない場合に別の回線を試すケースも多くなってきた」とコンテンツソリューショングループ主任の野中崇史氏は話す。