――7月1日に日立コミュニケーションテクノロジー(以下「日立コム」)を吸収合併し、情報通信グループの新体制が発足しました。まずは、この狙いから聞かせてください。
伊藤 2002年にキャリア向け事業を主とする日立製作所・通信事業部と、民需向けのPBX事業を主とする日立テレコムテクノロジーを統合し日立コムを設立した目的は、通信事業の機動力を向上させることでした。
今回、それを再び日立製作所に再統合したのは、社会インフラ事業により注力していこうとする日立全体の方針に基くものです。
電力やガス、水道、そして交通などとともに「通信」も、すでに企業活動や個人の生活に欠かせない重要な社会インフラの1つになっています。日立は、これまで積み重ねてきた社会インフラシステムに関する経験やノウハウを活かして「社会イノベーション事業」を強化する方針を打ち出しており、次世代ネットワーク(NGN)構築もその1つに位置付けています。
通信の分野で起こっている大きな変化、つまり従来の電話網からIPネットワークへの移行に対応するためには、日立製作所と日立コムの両者の力を融合させることが不可欠であり、NGNの発展に向けた取り組みをより強化するために通信ネットワーク部門を再統合しました。
――キャリア網のIP化に向けて、通信ネットワーク事業に求められる新たなニーズに対応するためということですね。
伊藤 そうです。サーバーやストレージ、ソフトウェア開発、仮想化などの日立製作所が持つ技術と、ソフト・ハードともに信頼性の高い製品を作り出してきた日立コムの技術を融合しなければ、NGN発展のシナリオは描けないと判断しました。
実際に通信キャリアからの要求も、日立製作所のネットワークソリューション事業部、日立コム、そしてアラクサラネットワークスの力を合わせなければ実現できないものへと変わってきています。
そのシナジー効果を発揮したネットワーク仮想化の一例が、これまでサービスごとに構築されてきたSDHやATMなどのレガシーネットーワークを回線エミュレーション機能によってIPネットワークに巻き取り、単一のトランスポートネットワークに統合するMPLS-TP技術です。この技術は、レガシー系設備と同等の信頼性を保ちながら、複数のサービスを1つの伝送装置で提供できるようにするものです。
MPLS-TPを採用した製品は、すでに国内の通信キャリアに導入されており、これをインフラとしてイーサネット専用線サービスが展開されています。
こうしたネットワーク仮想化への対応1つ取ってみても、製品開発力、営業・SE力の結集は欠かせません。これまでも、NGN事業を進めるうえでグループ内の連携、最適化は進めてきましたが、今回、会社の壁を取り払ったことで、より大きなシナジー効果が発揮できるでしょう。