再燃した米国のネットワーク中立性論争――有償のネットトラフィック優遇はどこまで認められるのか

米国でネットワーク中立性に関する議論が再燃している。有償でのトラフィック優遇の是非をめぐり、FCC、ブロードバンドISP、消費者団体、オバマ大統領などが激しい綱引きを行っている。

スクープ記事の先行

「ブロードバンドプロバイダーが最速レーンを通行するためのプレミアム料金を企業に課すことを許容する」

4月23日、ウォールストリートジャーナル(WSJ)の電子版は、トム・ウィーラー米国連邦通信委員会(FCC)委員長の準備する新しいオープンインターネット規則の提案内容について、この書き出しでスクープした。

このゴーサム・ナゲシ記者の署名記事は、ウィーラー委員長の提案が採用されたならば、「勝者は主要なブロードバンドプロバイダーになるだろう」とし、中小企業は被害を受けると言われていると報じている。

スクープで虚を突かれた形のウィーラー委員長は、直ちにこれに反論。24日付でFCCのブログに投稿し、「多くの誤った情報が最近表れている」と断じた。

ウィーラー委員長は、これ以後、情報発信ではともするとスクープ記事の後手に回ってしまった。彼は、オープンインターネットの推進を説いているのにも関わらず、その推進を主張する側からも強い批判に曝されてしまっている。

またも先鋭化の動きが見える米国のネットワーク中立性論議。本稿では、特にトラフィック優遇の議論に絞って、最近の動向を追ってみる。

トム・ウィーラー FCC委員長(提供:FCC)
トム・ウィーラー FCC委員長(提供:FCC)

ウィーラーFCC委員長の提案

冒頭で紹介したスクープ記事の2カ月前の2月19日。ウィーラー委員長は、新しいオープンインターネット規則の提案に向けた手続きに入ると発表した。

これは、彼の前任のジェナカウスキー委員長の時代、2010年12月に採択されたFCC規則の効力が、2014年1月のコロンビア特別区巡回裁判区控訴裁判所判決で一部を除き否定されたことを受け、判決の考え方を汲み取りつつ、新規則を策定しようというものである。

オープンインターネット規則は、ブロードバンドISPに対して、ネットワークのオープン性確保を求めるものだ。ネットを利用する消費者やエッジプロバイダー(ネットワーク上のコンテント、アプリケーション、サービスや端末を提供する事業者)の中に、その推進を求める強い声がある一方で、規制される側のベル系事業者やケーブルテレビ事業者は、オープン性確保には賛同するとしながらも、規制に警戒感を隠さない。

2010年の旧規則は、(1)透明性ルール(ネットワーク管理の運用、パフォーマンスの特徴及びサービス提供条件について開示を義務づけ)、(2)ブロック禁止ルール(一定のインターネットのトラフィックや端末の接続についてブロックを禁止)、(3)差別的取扱い禁止ルール(合法的なネットワークトラフィックの伝送における非合理的な差別的取扱いを禁止)の3つを主な内容としていた。

ウィーラー委員長は、判決が無効としなかった(1)をさらに強化し、無効化された(2)は、規定自体は維持しつつ、運用面で判決の考え方に即することとした。そして、同じく判決が無効とした(3)については、あらためて「執行可能な法的基準」を設定するとした。この「法的基準」とは何かが、新ルールに向けて最も焦点となった。

月刊テレコミュニケーション2015年1月号から一部再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

続きのページは、会員の方のみ閲覧していただけます。

藤野克(ふじの・まさる)

1990年郵政省(現総務省)入省。93年シカゴ大学社会科学修士号(MA)取得。総務省では、料金サービス課課長補佐(接続政策、電気通信事業法改正担当)、通信政策課企画官(電波法改正担当)等を歴任。2008年から12年まで在米国日本国大使館参事官。現在は、総務省地上放送課長。著書に『電気通信事業法逐条解説』(08年共編著)、『インターネットに自由はあるか 米国ICT政策からの警鐘』(12年)(12年度大川出版賞受賞)がある。

RELATED ARTICLE関連記事

SPECIAL TOPICスペシャルトピック

スペシャルトピック一覧

NEW ARTICLES新着記事

記事一覧

FEATURE特集

WHITE PAPERホワイトペーパー

ホワイトペーパー一覧
×
無料会員登録

無料会員登録をすると、本サイトのすべての記事を閲覧いただけます。
また、最新記事やイベント・セミナーの情報など、ビジネスに役立つ情報を掲載したメールマガジンをお届けいたします。