顕在化する妨害リスクと、2つの抗たん性強化策
こうした位置・時刻の信号は現在、様々な脅威にさらされている。
遠山氏は、ウクライナやイランなどの紛争地域では、航空機や船舶のGPS受信を狙った妨害波が確認されていることを紹介した。スプーフィング(なりすまし)によって商船の航跡が不自然な円を描いた事例も報じられている。
日本を含むアジア地域では、現時点で比較的安全な信号環境が保たれているが、今後もその状態が保証されるわけではないと遠山氏は指摘した。妨害機器の価格は下がり続けており、国家レベルの攻撃だけでなく、民間による嫌がらせに使われる可能性も十分にあるという。
こうした脅威に対し、みちびきは衛星システム側で2つの抗たん性強化策を講じている。
1つは2024年度に運用を始めた「信号認証サービス」だ。測位信号に含まれる航法メッセージに秘密鍵で電子署名を付与し、受信機が公開鍵で検証することで、正規の衛星から送られた信号かどうかを確かめられる。みちびきに加え、GPSとGalileoの信号も認証の対象となる。

抗たん性の取り組み ― 信号認証サービス
もう1つが「公共専用信号」だ。政府が認めた高度な安全保障を担う公的機関だけが利用できる暗号化信号で、妨害への耐性を持ち、有事の際の機能保証に寄与する。米GPSのMコードや欧州GalileoのPRSに相当する。
5号機喪失から11機体制へ
みちびきは当初、2025年度までに7機体制を構築する計画だった。ところが、2025年12月22日、H3ロケット8号機によるみちびき5号機の打上げが失敗した。
内閣府とJAXA、ロケットメーカー、衛星メーカーは約半年にわたって原因究明と対策を進め、2026年6月12日にH3ロケットの打上げを再開。8月11日にはH3ロケット9号機でみちびき7号機の打上げに成功した。
7号機は現在、軌道上で搭載機器の機能確認を進めており、2027年初めの測位サービス開始を予定する。これにより運用は5機から6機となる。
ただし、5号機の喪失により、日本付近の測位精度が大きく低下することが分かった。そこで残る6機の配置を見直し、精度の回復を図る検討を進めている。早ければ6機でのサービス開始に合わせて再配置を実施する可能性もあり、遠山氏は受信機メーカーに留意を呼びかけた。

6機運用での当面の対応
さらに、関係機関は11機体制を見据えて動き出している。
当初計画していた7機は、みちびき単独での測位を可能にする最低限の機数であり、1機でも故障すれば単独測位を維持できない。そこで、11機体制では、下の図表のように現在の8の字軌道の東西に軌道を2本追加し、どの1機が欠けてもサービスを継続できるようにする。

11機体制への拡張
「衛星が1基故障しただけで使えなくなるようなシステムだと、やはり使っていただけない」と遠山氏。位置と時刻を社会に供給する「インフラのインフラ」として、冗長性の確保が今後の焦点となる。6機運用への移行と11機体制の具体化の行方を注視しておきたい。













