うるう秒廃止決定の直後に開幕、TimeSyncJapan 2026が描く「時刻を届け続ける」基盤

時刻同期をテーマに産官学が集うイベント「TimeSyncJapan 2026」が開催された。開会セッションでは、総務省が時刻を電気・ガス・水道と並ぶ重要インフラと位置づけ、主催者側は日本標準時を光ファイバーで届ける国内時刻基盤の構想を提起。開催直前に決まったうるう秒の事実上の廃止についても、決議に関わった情報通信研究機構(NICT)の井戸哲也氏が解説した。

豪テルストラの障害が示した教訓

うるう秒の問題が片付いても、時刻同期のリスクが消えるわけではない。再び登壇した鈴木氏が紹介したのが、2026年7月8日にオーストラリアの大手通信事業者テルストラで起きた障害だ。

テルストラで起こった時刻同期障害

テルストラで起きた時刻同期障害

保守後の再起動で、NTPサーバーが誤って2006年の日付を出力した。誤った日付はネットワーク経由で下流のノードへ広がり、通話・メッセージ・データ通信に影響。同社の発表によれば、ピーク時には約45%の通話・データセッションに影響が及び、緊急通報611件がエラーとなった。

こうした重大障害を起こさないために、鈴木氏は「時刻同期を重要機能として管理することが大事」と強調した。疎通だけでなく、日付・時刻の正しさまで監視しているか。24時間体制で検知・隔離・復旧できる手順があるか――といった点を、各組織が確認すべき事項として挙げた。

リスクはNTPにとどまらない。

鈴木氏は、時刻同期システムの多くが時刻源として利用するGNSSが停止した場合の経済損失の試算も示した。測位・航法・時刻のすべてが止まる想定で、1日当たり世界で約200億ドル、日本で約10億ドルに上るという。英国政府の2023年の調査では、24時間の停止で約14.2億ポンドと試算されている。

なお、これらはいずれも時刻同期だけの損失ではない。停止範囲や代替手段、継続時間によって大きく変わる桁レベルの試算である。

海外では、GNSS依存を補う動きが進んでいるという。米国では2020年に大統領令13905が出され、2021年にはNISTがテクニカルノート2187を公開した。連邦政府関係の設備・調達では、GPSだけに頼るシステムは認められない方向だ。

英国では、標準時を担う国立物理学研究所(NPL)がNational Timing Centreを通じ、衛星依存を補完する時刻基盤を整備した。スウェーデンでは「Swedish Distributed Time」が稼働している。IX事業者のNetnodが運用し、国立研究所RISEが監視、日本の総務省に相当するPTSが資金を支援する体制で、6拠点に各2台の原子時計を置く。

日本標準時を光ファイバーで届ける

日本はどうするか。鈴木氏が提起したのは、NICTが生成する標準時を、光ファイバーで高精度に届ける国内時刻基盤の構想だ。

新たな時刻同期基盤の構想

新たな時刻同期基盤の構想

構想は3層で描かれる。まず、UTCなどの標準時と各拠点の時刻の関係を、校正・比較によって確認する。次に、地域拠点が独立した時計で時刻を保持し、筐体・経路・電源の分散で強靭性を高める。

そのうえで、通信、電力、放送、金融、データセンター、将来的にはAIといった利用現場に、必要精度に応じてPTPやNTPなどの方式で時刻を提供する。

あくまで講演での提案であり、個別組織の役割分担や事業化が決まったものではない。ただ、英国とスウェーデンに共通する「国内基準・分散配置・継続的な運用」の組み合わせを、日本の文脈に落とし込もうとする試みと言えよう。

重要社会インフラ事業者が利用できる基盤を目指す

鍵となるのは担い手だ。標準時をつくる研究者・専門家の知見と、ネットワーク・IX・データセンター、そして利用者が持つ運用・監視の知見を結集する必要がある。鈴木氏は「1分野の研究者、プロが成し遂げるのではなく、コミュニティで達成する必要がある」と訴えた。

うるう秒の廃止で、時刻は利用者にとってよりシンプルなものになる。だが、その時刻を社会インフラへ途切れなく届け続ける仕組みづくりはこれからが本番だ。その行方を注視しておきたい。

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