<連載>ミリ波のチカラ -超高速通信がもたらす新しい体験-[第18回]ミリ波利用促進へのドコモの取り組み【前編】――「速さより体験価値」がカギに

5Gの展開が一定の段階に到達した現在、ネットワークに求められる課題は「いかに高速化するか」に加え「いかに混雑環境で品質を維持するか」が重要なポイントとなってきている。特にスタジアムや大規模イベントなどでは、同一エリア・同一時間帯に極めて高密度のトラフィックが発生するため、従来のSub6主体の設計だけでは容量の限界が顕在化しやすい。こうした状況で、ミリ波は単なる高速通信手段ではなく、ネットワーク全体の容量を拡張するための重要なレイヤーとして再評価されつつある。一方で、実トラフィックに占めるミリ波の割合は限定的であり、潜在能力を十分に活かしきれていない。今回から2回にわたり、ドコモの取り組みを踏まえ、このギャップがなぜ生じるのか、そしてどのような設計によって解消し得るのかについて、実装視点から整理する。

ミリ波の議論はしばしばピークスループットの高さに焦点が当てられるが、実運用上の価値はむしろセル容量の拡張にある。広帯域を確保できるという特性は、端末1台あたりの速度向上以上に、同時接続ユーザー数が増加した際の安定性に寄与する。

高密度のトラフィックが発生する環境において、重要なのは個々のユーザーがどれだけ速度を出せるかではなく、エリア全体としてどのレイヤーにトラフィックを分散させるかという設計である。ミリ波はこの際、Sub6 や、さらに周波数の低い既存帯域の負荷を吸収する“容量レイヤー”として機能する。したがって、その導入検討においてはカバレッジよりも、トラフィック集中箇所へのピンポイントな適用が合理的となる。

図表1 広帯域ミリ波の効果イメージ

図表1 広帯域ミリ波の効果イメージ

利用率が伸びない構造的要因

ドコモのネットワークにおいても、ミリ波の利用割合が伸び悩む傾向が確認されている。この背景には、いくつかの構造的要因が重なっている。

第一に、電波伝搬特性に起因するカバレッジの不連続性である。直進性の高さにより遮へいの影響を受けやすく、従来のマクロセル中心の設計では安定したエリア形成が難しい。

第二に、端末側のミリ波対応状況である。ミリ波の端末への搭載率および、ミリ波対応端末の普及率が伸び悩んでおり、トラフィックオフロードとして十分機能しない。

第三に、ネットワークと端末だけでなく、利用のシナリオ、すなわちユースケースが必要なことである。ミリ波は自然発生的に使われる帯域ではなく、利用を促すシナリオ設計が必要になる。

これらは相互依存関係にあり、個別最適では解決できない点が特徴的である。

エリアを整備しても対応端末が少なければトラフィックは乗らず、端末が増えても利用動機が弱ければミリ波への接続機会は限定される。さらに、体験価値が伝わらなければ端末普及も進みにくい。つまり、ミリ波利用の伸び悩みは技術単独の問題ではなく、ネットワーク・端末・利用シーンを同時に設計してはじめて解決する問題である。

木原茉莉子(きはら・まりこ)

NTTドコモ ネットワーク部 電波企画室 電波担当課長。2006年入社。基地局置局設計、展開計画、エリア品質業務等を経て現職。現在は電波利用制度、ミリ波・ローカル5Gの活用促進、次世代移動通信に向けた周波数活用戦略の検討に従事

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