<連載>フィジカルAIの通信・システム要件フィジカルAIの通信要件 用途に応じた遅延・ジッター・帯域の対策を

フィジカルAIの安定運用のために重視すべき通信要件は、遅延、ジッター、帯域の3つだ。ただ、“何を実現したいか”によって、適切な要件は異なってくる。計算資源も含めた全体設計が求められる。

学習にも上り帯域確保を

遅延やジッターが「時間」の問題だとすれば、帯域は「データ量」の問題である。映像やLiDARなどをAI処理基盤へ送るフィジカルAIでは、上り方向の通信がボトルネックになり得る。

ネットワンシステムズ ビジネス開発本部 イノベーション推進部 ビジネス開発チームの伊藤千輝氏は、「フィジカルAIでは実環境のデータを取得してAIモデルに推論させフィードバックする折り返し通信が不可欠。映像データや大容量のセンシングデータを扱うにはネットワークの比重が高くなる」と述べる。とりわけ移動体ロボットでは、学習・推論に必要な処理を内蔵GPUだけで賄えず、無線経由でエッジ、MEC、クラウドなどの外部計算資源を使う場面が出てくる。その際、現場からこれらの基盤へ送る上り帯域の確保が課題になる。

また、上り帯域は推論時だけでなく、現場データを学習やモデル改善に戻す際にも必要になる。運用しながら学習を続けるAIでは、データを継続的に吸い上げる設計が求められる。

こうした帯域を確保する手段として、5Gやローカル5Gは有力な選択肢になる。ネットワンシステムズ ビジネス開発本部 応用技術部 ネットワークチームの岡﨑絢哉氏は、無線方式について「管理通信やユーザーデータ通信を完全に自社の拠点内にとどめておきたい場合はオンプレミス型のWi-Fiやローカル5Gが候補になる一方、クラウド上で問題ない場合はキャリア5Gも選択肢になる」と説明する。さらに、5G SAのサービスエリア内であれば、「キャリア5G+ネットワークスライシング」という構成も考えられる。

ネットワンシステムズ ビジネス開発本部 応用技術部 ネットワークチーム 岡﨑絢哉氏

ネットワンシステムズ ビジネス開発本部 応用技術部 ネットワークチーム 岡﨑絢哉氏

既存の構内ネットワークとして広く使われてきたWi-Fiも、フィジカルAIの無線基盤として重要な選択肢になる。Wi-Fiはかつて上り方向に弱いと見られることもあったが、「世代が進むにつれて多数の端末を収容する能力は高まっており、新しい技術を導入する意味がある」(シスコ島﨑氏)。また、シスコ 執行役員 ネットワーキング事業担当の高橋敦氏は、「企業のネットワーク設計が、従来の需要予測に基づくコスト効率重視から、余裕を持たせた設計へ変化している」と語る。フィジカルAIの登場により、現時点の通信量だけでなく、将来の上りトラフィックや接続端末数の増加を見越した設計が求められるようになっている。

シスコシステムズ 執行役員 ネットワーキング事業担当 高橋敦氏

シスコシステムズ 執行役員 ネットワーキング事業担当 高橋敦氏

フィジカルAIを活用するための最適な通信要件に唯一の答えはない。遅延、ジッター、帯域のどれが制約になるかは、用途や制御対象、AI処理の配置によって変わる。通信方式ありきではなく、実現したい動作から要件を逆算することが重要になるだろう。

[月刊テレコミュニケーション 2026年8月号の記事を再構成]

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