「ジッターレス」に挑む
遅延に加えて、通信のゆらぎ、すなわちジッターも重要になる。無線通信では、通信品質や混雑状況の変化により、データの到着タイミングがばらつきやすい。制御では、遅延が一定ならその遅れを前提にできるが、変動するとシステムが参照する状態と現実の状態にずれが生じる。
森広氏は、「ロボット制御においては遅延よりもジッターの影響の方が大きい」と話す。安定した通信を実現するため、同社は5Gスライシングを用いてジッターの影響を緩和している。将来的には、ジッターを最小化する技術として確定性通信にも注目している。エンドツーエンドの遅延を単に短くするのではなく、遅延の変動を抑え、予測可能な通信に近づけることが狙いとなる。
ソフトバンクは、フィジカルAIへの応用も視野に、TSN(Time-SensitiveNetworking)を5Gで実現するTSN over 5Gの取り組みを進めている。同社は2026年、村田製作所とCC-Link協会の協力のもと接続実証を行い、時刻同期精度平均122ナノ秒、ジッター0.1ミリ秒程度を達成した。
ジッターは学習にも影響する。ソフトバンクは、振り子を倒さないように台車を動かす「Cart-pole問題」を題材に、通信に意図的にジッターを加えて強化学習のシミュレーションを行った。その結果、ジッターのある通信では試行回数を増やしても学習精度が上がりにくく、ジッターレス通信では少ない試行回数でも効率よく学習できたという(図表3)。ジッターがあると、AIモデルが受け取る状態と実際の状態がずれ、適切な行動を学習しにくくなるからだ。ソフトバンク 技術統括プロダクトR&D本部 先端技術開発統括部 次世代ソリューション開発室室長の小林謙吾氏は、「通信にゆらぎがなければ状態を正しいタイミングで正確にフィードバックできるので、学習が早く進む」と説明する。
図表3 強化学習シミュレーションにおけるジッターの影響


ソフトバンク 技術統括 プロダクトR&D本部 先端技術開発統括部 次世代ソリューション開発室 室長 小林謙吾氏
Wi-Fiでは空間で発生するビット誤りが自動再送による遅延に変換されるため、ジッターの主要因の一つになる。パケットが失われれば再送が必要になり、その分だけ到着タイミングがずれるためだ。また、移動体ではローミング時の瞬断も問題になる。
この課題を、シスコは超高信頼ワイヤレスバックホール(Ultra-Reliable Wireless Backhaul:URWB)で乗り越えようとしている。URWBは、移動体が接続先を切り替える際にも通信を途切れにくくし、無線区間の冗長性を高めることで、パケットロスや瞬断の影響を抑える技術だ。移動中のロボットや機械でも、通信断や再送に起因する遅延変動を抑え、制御や監視に使える無線の信頼性が向上する。シスコでは同技術をWi-Fiソリューションに統合しており、フィジカルAIを含めた利用シーンを増やしているという。











