NICT 大野理事長「日本に必要なのはスピード 技術で築く自律性と不可欠性」

生成AIの急速な進化と世界の分断を背景に、情報通信基盤は国の競争力と安全保障をよりいっそう左右する存在になっている。変化のスピードが加速するなか、日本は技術の「自律性」と「不可欠性」をどう高め、社会価値につなげていくのか。今年4月にNICT 理事長に就任した大野英男氏に、4つの戦略領域を軸とする研究開発の方向性と、社会価値創造への構想を聞いた。

国が必要な人材育てる

――最先端の研究開発を担う人材の不足も課題です。

大野 企業のニーズだけでなく、国として必要な人材をどう育てるかが問われています。

その象徴がサイバーセキュリティです。世界の有力大学がこぞって看板に掲げる分野ですが、サイバーセキュリティを専門とする学科の数は中国が600以上、韓国は100以上、日本は2つと大きな差があります。

また、皆が認めるハイレベルな国際会議が4つありますが、そこにコンスタントに論文を出しているのは、日本ではNICTとNTT、そして2つの大学研究室だけです。

サイバーセキュリティは国にも民間にも必要な分野ですから、研究拠点をどう作り、人材を育てながらどのように研究レベルを引き上げていくのか、NICT内部だけでなく、外部の方々とも議論しているところです。

――災害時の通信をどう確保するかも、日本にとって重要です。

大野 東日本大震災、南海トラフ、富士山の噴火等、日本は大きな災害に見舞われる場所に位置しています。

被災地へ早く駆けつけるだけでなく、被災地が何を必要としているかを伝える通信が途切れれば、どうしようもありません。

NICTが開発した「NerveNet」は、電源ごと基地局を担いで運べる仕組みです。和歌山県白浜町では平常時にフリーWi-Fiなどとして使い、災害時にもそのまま活用する運用が進んでいます。全国に展開しやすい機器を開発するのが、我々の役割です。

――第6期中長期計画の最終年度は2030年です。2030年のNICTの姿をどう描いていますか。

大野 AIがこれだけ発展すると、未来予測は簡単ではありません。ただ、スピードと社会価値創造のサイクルをきちんと回せば、どのような未来にも対応できます。日本としての自律性を確保し、不可欠性をどれだけ外に出していけるかが重要です。

かつては、世界の大抵の国や企業から、欲しい製品や技術を自由に買える平和な環境でした。しかし世界が分断されつつある今、日本はこの変化に適応し、他国から強制力を持たれにくい立場を築く必要があります。情報通信の研究に携わる私たちは、そのためにできる限りのことをしていきます。AIの発展に受け身ではなく、価値創造に積極的に関与し、アジリティ高く研究開発を進める─これが2030年までのNICTの仕事です。

社会にとって不可欠な情報通信基盤の発展とその堅固なセキュリティに貢献しながら、日本の競争力と安全保障に貢献していきたいと思います。

月刊テレコミュニケーション 2026年8月号の記事を再構成]

大野英男(おおの・ひでお)氏

1982年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了(工学博士)。1994年東北大学工学部教授、1995年東北大学電気通信研究所教授、2013年東北大学電気通信研究所所長(~2018年)、2018年東北大学総長(~2024年3月)。2024年4月より東北大学総長特別顧問、2026年4月より国立研究開発法人情報通信研究機構理事長、現在に至る。日本IBM科学賞、日本学士院賞、江崎玲於奈賞など多数受賞。専門は半導体物理・半導体工学、スピントロニクス

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