国が必要な人材育てる
――最先端の研究開発を担う人材の不足も課題です。
大野 企業のニーズだけでなく、国として必要な人材をどう育てるかが問われています。
その象徴がサイバーセキュリティです。世界の有力大学がこぞって看板に掲げる分野ですが、サイバーセキュリティを専門とする学科の数は中国が600以上、韓国は100以上、日本は2つと大きな差があります。
また、皆が認めるハイレベルな国際会議が4つありますが、そこにコンスタントに論文を出しているのは、日本ではNICTとNTT、そして2つの大学研究室だけです。
サイバーセキュリティは国にも民間にも必要な分野ですから、研究拠点をどう作り、人材を育てながらどのように研究レベルを引き上げていくのか、NICT内部だけでなく、外部の方々とも議論しているところです。

――災害時の通信をどう確保するかも、日本にとって重要です。
大野 東日本大震災、南海トラフ、富士山の噴火等、日本は大きな災害に見舞われる場所に位置しています。
被災地へ早く駆けつけるだけでなく、被災地が何を必要としているかを伝える通信が途切れれば、どうしようもありません。
NICTが開発した「NerveNet」は、電源ごと基地局を担いで運べる仕組みです。和歌山県白浜町では平常時にフリーWi-Fiなどとして使い、災害時にもそのまま活用する運用が進んでいます。全国に展開しやすい機器を開発するのが、我々の役割です。
――第6期中長期計画の最終年度は2030年です。2030年のNICTの姿をどう描いていますか。
大野 AIがこれだけ発展すると、未来予測は簡単ではありません。ただ、スピードと社会価値創造のサイクルをきちんと回せば、どのような未来にも対応できます。日本としての自律性を確保し、不可欠性をどれだけ外に出していけるかが重要です。
かつては、世界の大抵の国や企業から、欲しい製品や技術を自由に買える平和な環境でした。しかし世界が分断されつつある今、日本はこの変化に適応し、他国から強制力を持たれにくい立場を築く必要があります。情報通信の研究に携わる私たちは、そのためにできる限りのことをしていきます。AIの発展に受け身ではなく、価値創造に積極的に関与し、アジリティ高く研究開発を進める─これが2030年までのNICTの仕事です。
社会にとって不可欠な情報通信基盤の発展とその堅固なセキュリティに貢献しながら、日本の競争力と安全保障に貢献していきたいと思います。
[月刊テレコミュニケーション 2026年8月号の記事を再構成]











