キリン工場で高出力Wi-Fiを検証 6GHz帯SPモードなら600メートルでも200Mbps

SPモード制度化により6GHz帯Wi-Fiを屋内外で高出力利用できるようになれば、ユースケースは大きく広がる。その有効性を実環境で示すため、キリンビール仙台工場で実証実験が行われた。

実験局免許取得し4W出力

SPモードの制度化を見据え、ビーマップはNTTブロードバンドプラットフォーム(NTT BP)とシスコシステムズの協力の下、実フィールドでSPモード相当の高出力で電波を発信し、有効性を実証する実験を実施した。

実験は2026年3月29日・30日にキリンビール仙台工場で実施された。 キリンビールでは監視カメラやセンサーを活用し、工場内の安全管理や装置の予知保全に取り組んでいるが、建屋内は金属製配管や設備が多く、電波伝搬の障害となりやすい。このため多くの機器は有線で接続されており、無線化をさらに進めるうえで、より広いエリアを安定的にカバーできる通信基盤が求められていた。

同実験は総務省から実験局免許を取得したうえで実施された。現行制度下では利用できない4Wの高出力を用い、屋内と屋外の双方でカバレッジとスループットを検証した。

送信側にはシスコシステムズ製のWi-Fi 7対応アクセスポイント(AP)「Cisco Wireless 9179F」、受信側にはEdgecore Networks製のWi-Fi 6E 端末「OAP101-6E」を用いた。屋内の両方で、送信側APを固定設置し、受信側を移動させながら、AP・端末間の通信速度を測定するとともに、ヒートマップツール「Airmagnet」を搭載したノートPCにWi-Fiドングルを取り付け、電波強度を測定した。

屋内外でカバレッジ大幅増

 

屋内では、送信側APとの見通しがほとんど取れない工場内で実験を行った。約43m×87mのエリアを対象に計測した結果、測定ポイントの過半数で上り500Mbps以上、下り400Mbps以上を記録した。直線距離で約100mの範囲にわたり高いスループットを維持し、壁に隔てられた場所でも通信が成立。現行のLPIモードに比べ、カバレッジは大幅に拡大した(図表1)。配管などの障害物が多い環境でも、1台のAPで広い範囲を相応の速度でカバーできる可能性を示した。

図表1 SPモード実験実測値ヒートマップ(屋内)

図表1 SPモード実験実測値ヒートマップ(屋内)

工場屋内実験の模様。写真手前が受信側端末。送信側APは見通せない

工場屋内実験の模様。写真手前が受信側端末。送信側APは見通せない

屋外では、大型車両が走行する構内道路を見渡せる位置に親機を設置し、距離を離しながら測定。その結果、約 600m先でも通信が成立し、200Mbps級のスループットを確認した地点もあった(図表2)。構内道路に沿って通信可能エリアが大きく広がり、現行のVLPモードでは通信が困難な、送信側APへの見通しのないエリアでも通信できた。

図表2 SPモード実験実測値ヒートマップ(屋外)

図表2 SPモード実験実測値ヒートマップ(屋外)

屋外実験の模様。写真手前は受信側端末で、奥に送信側APを設置

屋外実験の模様。写真手前は受信側端末で、奥に送信側APを設置

ただ、距離に応じた電波強度の減衰は確認されたものの、スループットは距離と比例せず不規則に変化した。ビーマップ 事業推進本部 無線技術顧問の高木映児氏は、「両側に建造物のある直線道路部分では、道路方向への閉じ込め効果により、伝搬挙動が一次元的傾向に近づいた可能性がある」と指摘した。実験では屋外はVLPモードとSPモード、屋内ではLPIモードとSPモードで比較し、全般的にはSPモードの優位性が示された。一方、上記のような挙動や屋内の多重散乱環境では想定と異なった結果が得られた点もあった。高木氏はこれを「客観的な事実として、空間構造に影響されるという知見が得られた」と評価する。高出力化の効果は確かに大きいが、現場環境によって結果が大きく左右されることが浮き彫りになった。

ビーマップ 事業推進本部 無線技術顧問の高木映児氏

ビーマップ 事業推進本部 無線技術顧問の高木映児氏

ユースケースに応じた検証へ

キリンビール 生産本部 技術部 主査の宮浦直人氏は、この実験結果を工場無線化を進めるための検討材料として評価した。工場内の有線幹線は細く、現状では監視カメラのデータをクラウドにアップロードできていないという。幹線の増強にはコストがかかるが、今回の実験結果により、無線によってオフロードできる可能性が示唆された。

また、屋外の実験結果は、構内を走行するフォークリフトの自動運転に必要な通信基盤としても有望であることを示している。宮浦氏は「現状の設備ではできないことができるようになるのか、ユースケースごとに必要な帯域を洗い出していきたい」と語った。

キリンビール 生産本部 技術部 主査の宮浦直人氏

キリンビール 生産本部 技術部 主査の宮浦直人氏

総務省 情報通信審議会 陸上無線通信委員会は4月17日、SPモード制度化に向けた報告書案を了承した。今後AFC運用体制の具体化などの調整が進むと思われるが、ビーマップは電波法改正前に得られた今回のの実測データを、SPモード実用化の加速のために役立てていく考えだ。

また同社は、制度化後の早期展開を見据え、次の段階として「複数 AP構成での干渉検証や、センサー無線化・カメラ映像伝送・ロボット制御といった具体的なユースケースに対応した検証を行っていきたい」と展望した。

[月刊テレコミュニケーション 2026年6月号の記事を再構成]

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