6Gでは、衛星やHAPSなどのNTN(Non-Terrestrial Network:非地上系ネットワーク)をどう統合するかが重要な論点になっている。6Gが目指すのは、海上・航空、災害対応など、場所や状況を問わず「いつでもどこでも」つながる世界だ。だが、基地局や光ファイバーを前提とする地上網だけではカバーしきれる範囲に限界がある。そこで低軌道(LEO)・中軌道(MEO)コンステレーションや静止衛星、成層圏を飛行するHAPSなど、様々な手段を組み合わせるアプローチが模索されている。
もっとも、6Gを待つまでもなく、NTNの存在感はすでに大きく高まりつつある。一般的なスマートフォンで衛星と直接通信するD2D(Direct-to-Device)が昨年から各国で始まったからだ。Starlinkを提供するスペースXが、各国のMNO(移動通信事業者)と連携する形で展開しており、日本では2025年4月にKDDI が「au Starlink Direct」をスタート。NTTドコモは今年4月から提供を始め、ソフトバンクも6月に開始する。
では、6G時代に向けて、NTNの存在感がさらに増していくなか、地上網とNTN、さらにはMNOと衛星通信事業者(SNO:Satellite Network Operator)の関係は今後どう変化していく可能性があるのか。その将来を占う前に、まずは足元で広がるD2Dの種類と動向を整理しよう。
MNO連携で始まるD2D
D2Dの実現方法は大きく4つに分類できる(図表1)。分類軸となるのは、利用する周波数の種類と、地上系MNOとの連携形態の2つだ。
図表1 D2D(Direct-to-Device)衛星サービス実現方法のモデル
D2Dで使われる周波数は大別して2系統に分かれる。1つはMSS向けに分配されたL帯(1.5/1.6GHz)やS帯(2GHz)の衛星専用帯域で、3GPP NTN仕様でもRel-17のn255(L帯)やn256(S帯)として取り込まれており、Rel-19ではn252も追加された。もう1つは元来地上携帯電話向けに割り当てられたIMT(International Mobile Telecommunications)周波数で、こちらをMNOの免許下で衛星から放射する方式である。以下、4類型を順に見ていこう。
1つめはSNOがMSS(Mobile Satellite Service)向け周波数を用い、独自端末・独自プロトコルでサービスを提供するモデルで、従来型の衛星携帯電話が該当する。
2つめはSNOがMSS周波数を用いて、端末ベンダーと提携し、特定のスマートフォンにD2D機能を組み込むモデルだ。Globalstarとアップルによる、iPhoneでの緊急通報サービスがこれにあたる。
3つめが、大きく先行するスペースXが採用しているモデルだ。SNOとMNOが連携し、MNOが保有するIMT周波数を衛星側で利用する。既存スマートフォンでそのままD2Dサービスが利用できることが大きな利点であり、SNOは多くのユーザーを獲得でき、MNOは地上網だけでは困難なカバレッジの拡大を実現できる。AT&Tやベライゾン、楽天モバイルなどのMNOと提携し、D2Dサービスを提供する計画を進めているAST SpaceMobileもこのモデルだ。
そして4つめが、SNOがMSS向け周波数を利用しながら、MNOの加入者管理、認証、課金、ローミング基盤などと組み合わせるモデルだ。
現在主流となっているIMT周波数を利用する3つめのモデルは、SNOとMNOの双方にとって利点が多いが、各国の免許制度への複雑な対応や、高度な干渉管理を必要とするため、サービス展開の自由度の面で制約が少なくない。
そこで中長期的に注目されるのが、衛星通信での利用を前提に分配されたMSS向け周波数を用いる4つめのモデルである。IMT周波数を衛星で再利用する場合と違い、制度上の位置づけは明確であり、SNOが自由にサービス展開しやすい。その反面、利用できる帯域には制約があり、音声やデータ通信をどこまで拡張できるかが課題となる。また、現時点ではMSS帯を広く利用できるスマートフォンは限られている。
このモデルでは、SNOがMSS向け周波数を確保し、MNOの免許に頼らずに自前でD2Dを完結させようとする動きが現れつつある。その一例がアマゾンだ。2026年4月、アマゾンはGlobalstarの買収合意を発表した。Globalstarが保有する衛星、地上局、MSS周波数などを取り込むことが目的である。また、この買収によりアマゾンはGlobalstarが米国・カナダなど11カ国で保有する地上系免許(3GPP band n53)もあわせて手にする。アマゾンはGlobalstarの衛星網とMSS周波数も活用して2028年以降に音声、データ、メッセージングを含むD2Dサービスを展開する構想を掲げる。n53帯は2.4GHz帯のTDD(11.5MHz幅)で、衛星帯域に隣接する地上利用枠としてプライベート5Gなどの用途に使われてきたものであり、D2Dそのものに用いるわけではないが、衛星と地上の双方に免許資産を持つ事業者を傘下に収めることで、アマゾンはMSS事業者として独立的にD2Dを展開しうる足場を確保することになる。
スペースXも自前のD2D向け周波数の確保を急いでいる。スペースXは2025年9月SNOである米EchoStarからD2Dの「ゴールデンバンド」と呼ばれる2GHz帯のAWS-4(もとはMSS用に分配され、後に衛星・地上の双方での利用が認められた帯域)を取得し、今年6月に開始されるAWS-3周波数帯のオークションへの参加も申請している。当面スペースXは、MNOとの協調を軸にD2Dを展開すると見られているが、マルチメディア振興センター(FMMC)調査研究部 研究主幹の飯塚留美氏は、「MNOとの提携をベースとしながらも、自前の周波数で独自サービスを展開することを模索しているのではないか」と、D2DにおいてMNOから独立したビジネス展開を行う可能性を指摘する。

マルチメディア振興センター(FMMC)調査研究部 研究主幹 飯塚留美氏
このようにSNOが新たな周波数獲得に意欲を見せるなか、国際電気通信連合(ITU)が2027年に開催する世界無線通信会議(WRC-27)でも、議題の多くを衛星・宇宙関連が占めている(図表2)。













