<連載>大解剖! 工場ネットワーク最新動向[工場通信の基礎知識]通信技術の“選択と適応”がカギ

工場の通信ネットワークの環境や設計思想はオフィスネットワークとは大きく異なる。工場通信の歴史的な変遷や現場の特性を踏まえつつ、その基本的な考え方と設計のポイントを整理する。

製造現場という特殊環境

では、工場とは通信にとってどのような場なのか。

オフィスにネットワークを構築する場合、環境条件は共通している。天井高は2.5~3m、室温は空調で管理され、フロアはおおむね形状が決まっており見通しが利く。

製造現場にはこのような標準が存在しない。中小規模の町工場は狭い空間に設備が密集する。大規模工場は天井が高く、大型設備が見通しを遮り、フォークリフトなどの車両が工場内を走り回る。プラント工場は金属構造物が林立する。工場ごとに環境はまるで異なる。

金属と動きの世界

電子部品や自動車部品の組立工場を例にとる。フロアの隙間という隙間に設備や部品棚が詰め込まれている。金属製の設備、金属製の棚、金属製の筐体、工場は金属の塊である。電波は金属で反射し予測困難なマルチパスを生む。有線ケーブルも設備の振動や作業者・フォークリフトの接触で損傷するリスクがある。シャッターの開閉一つで環境が一変する。

そして工場の中身は常に動いている。品目が変われば治具や金型が入れ替わり、仕掛品の置き場が移動し、在庫量が日々変動する。通信環境を左右する遮蔽物そのものが日常的に変化するため、導入時に最適化した環境が通用しなくなることもある。

造船所や重機工場はまったく別の様相を呈する。天井高は20m、30mに達し、天井クレーンが移動する。製造が進むにつれて製品そのものが巨大化し、通信環境が製品の完成度とともに変化する。化学プラントや製鉄所ではさらに厳しい。高炉周辺は環境温度が場所によって数十℃から200℃以上に達する。化学プラントでは腐食性ガスにさらされ、防爆エリアでは電気機器の使用自体に制約がある。通信機器の選択肢は限られており、民生品をそのまま持ち込むことはできない。

現場の多様性と固有の合理性

大手から中堅まで、工場を訪れて共通するのは、最新と旧式の混在だ。建屋の一角では30年選手のプレス機がネットワークに接続されず稼働し、稼働状況は手書きの日報で記録される。隣のエリアには産業用イーサネットで制御される溶接ロボットがあり、溶接後の部品はAGVが検査工程に運ぶ。検査工程の画像検査装置はMESにデータを送るが、プレス機の稼働データは事務員が表計算ソフトに手入力している。プレス機の異常はベテランが「いつもと音が違う」と感じ取ることで予兆の段階で検知される。

最新のIoTと、手書きの日報と、ベテランの勘が同居している。ちぐはぐに見えるが、ここには合理性がある。どこに投資し、どこは人と運用でカバーするかという取捨選択が長年繰り返された結果として、制約条件の中で最適化されてきた。

工場とは、付加価値を生み出す場そのものだ。火花が散り、油が飛び、騒音の中でわずかな時間の改善に現場が全力を尽くしている。その積み重ねが設備構成、段取り、検査、人の配置といった無数の要素の組み合わせを形作ってきた。工場の競争力は、特定の設備や技術ではなく、こうした要素が特定の順序・粒度・役割分担で噛み合い、一つの仕組みとして成立している点から生まれる。個々の要素は他社も導入できるが、その噛み合わせを外部から再現することは極めて難しい。同じ「自動車部品工場」でもA社とB社の現場はまるで違うのは、そのためだ。

工場に通信を組み込むとは、この固有の仕組みに通信を埋め込む行為にほかならない。ただし、この仕組みとしての合理性が、変化すべき時に変化を阻む固着になっていないかは常に問い直す必要がある。通信の導入は、現場の仕組みを可視化し、時にはそれを再構成する契機にもなりうる。

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