――2013年はSDN(Software-Defined Networking)を適用する領域が大きく広がる可能性が示されたと思います。これまではデータセンターが主流でしたが、通信キャリアや企業向けの製品も登場するなど、ベンダー各社の取り組みも進んでいます。改めてSDNの意義と、通信・ネットワーク業界への影響を教えてください。
浅羽 SDNには2つ大きなポイントがあります。
通信・ネットワーク機器はこれまで、ハードウェアとOS、アプリケーションが一体型で提供されてきました。SDNによって、ハードウェアと、それを制御するOS、アプリが分離可能になり、それぞれにおいて競争していく環境が生まれようとしています。かつてのコンピュータ業界と同じ変化が通信・ネットワークにも起こりつつあるというのが、SDNの1つの側面です。まだ移行しきってはいませんが、そうなるためのお膳立てはできつつあるというのが、現在の状況です。
――業界全体の流れとして、従来型のネットワークをSDN 化していくための構造ができたといえるでしょうか。
浅羽 そう思います。SDNは、パケット転送を行うデータプレーンと、「SDNコントローラ」と呼ばれるコントロールプレーンで構成されます。この分離を実現するには、SDNコントローラがデータプレーンを制御するためのインターフェース「サウスバウンドAPI」が整備されなければなりません。
この標準プロトコルの1つであるOpenFlowについては、安定化バージョンと言われているバージョン1.3、および2013年10月にリリースされた1.4をサポートする方針をメーカー各社が明確にしています。かなり整備が進んでいるといえるでしょう。
SDNベンダーの取り組みは「ノースバウンドAPI」にシフト
――通信・ネットワーク業界がSDNに取り組む背景として、ネットワークも含めたコンピューティングリソース全体を仮想化し、より柔軟に配置、利用できるようにしたいという要請が強まったこともあります。
浅羽 その通りです。サーバー等と同様にネットワークも仮想化し、ハードとソフトを分離することで、システム全体が特定のハードに縛られることなく動かせるようになります。これが、SDNが目指す方向性です。
現在のクラウドは、1カ所のデータセンターにあるサーバーやストレージのリソースをネットワーク経由で利用するというのが主流です。しかし今後は、分散配置されたコンピューティングリソース全体を、ユーザーがニーズに応じて柔軟に組み合わせて利用するような形態に変わっていくでしょう。SDNは、その全体をソフトウェアで制御しようというもので、より柔軟なクラウドを実現するための取り組みとして期待されています。
最近ではこうした、インフラ全体をソフトウェアで制御するというコンセプトを打ち出すベンダーも増えてきました。
――キャリアや一般企業等のユーザーにはどのような影響がありますか。
浅羽 やはり、ベンダーロックインがないという点が大きいでしょう。ハードとソフトのそれぞれのレイヤでベンダーが競争することで、効率化していくことがメリットです。
また、ネットワークの構築が柔軟にできるようになります。通信キャリアにとっては、新たなネットワークサービスを従来よりも速く展開できるようになるわけです。これまでは、ハードウェアベンダーの対応を待たなければ提供できないケースもありましたが、ソフトウェアが分離しオープン化されれば、独自性のあるサービスをいち早く開発して提供できるようになります。これが、冒頭に申し上げた2つのポイントの、もう1つです。
これは、SDNコントローラと、その上位のアプリやクラウド等が連携するための「ノースバウンドAPI」によって実現されます。こちらも標準化の取り組みが進めば、ユーザーが、提供されているネットワーク機能を柔軟に組み合わせて利用したり、アプリを開発して独自のサービスを作ることも可能になります。
――今後は、こちらに重点が移ってくるでしょうか。
浅羽 そう思います。ベンダー各社がノースバウンドAPIを公開していますが、それを使いやすくするためのツール作りなど、まだまだ取り組みは十分ではありません。今後は、ハードウェアを制御するコントロールプレーンと、アプリ開発を促進するためのフレームワークやプラットフォーム作りに重点が置かれていきます。2014年度は、各社の取り組みがこの部分にシフトしていくでしょう。