電通大 藤井教授「日本のワイヤレス産業復活 必要なのは人材と基盤技術」

日本のワイヤレス産業の行く末を懸念する声が強まっている。経済安全保障のリスクも高まる中、日本の通信インフラが「海外依存」になっていいのか。総務省の電波有効利用委員会の主査や情報通信成長戦略官民協議会の構成員を務めるなど、ICT政策にも深く関わる電気通信大学の藤井教授に、人材育成や産学官連携の重要性、次世代ワイヤレス技術の展望などを聞いた。

ユーザー視点で各産業と一体で

――スマートフォンや4G/5Gをはじめとするワイヤレス技術が、現代社会に不可欠なインフラになっていることは誰もが認めるところです。ただ、ワイヤレス技術の発展が新しい未来を切り開いていくといった期待感に関しては、残念ながら5Gの開始前後を境に、大きく後退してしまった印象があります。

藤井 5Gについては、ユーザー視点を十分に意識できておらず、「我々が作った5Gを使ってください」という面が強すぎたのではないかと感じています。

つまり、「5Gは何でもできる」といった印象を与えたものの、実際に使ってみると「意外と普通だね」「うまくいかないね」となってしまいました。

そういう意味では、ユーザーとしっかりコミュニケーションしながら、これからのワイヤレス技術を作り上げていく姿勢をもっと強化していく必要があると思っています。ワイヤレス技術を実際に利用するユーザーに関する知識が足りていないことが大きな課題の1つです。

工場や鉄道、自動車、電力など、様々な産業がワイヤレス技術をもっと活用したいと考えているのに、彼らが本当に使いたいワイヤレス技術はまだ提供できていません。

ですから大切なのは、そうした各産業と連携した活動です。例えば、自動車業界は、自動運転のためにワイヤレス技術を活用したいと考えていますが、通信業界と一体化して取り組むというところには、まだ至っていないと思います。

衛星から電波監視

――注目されているワイヤレス技術について教えてください。

藤井 私たちの研究室で取り組んでいる研究テーマの1つが、無線周波数をさらに確保していくための可視化・活用技術です。

今後、新たに使える周波数を開拓していくうえでは、どうしても周波数の共用が必要になっていきます。

――現状は、2.3GHz帯で携帯電話システムとFPU(放送事業用無線局)によるダイナミック周波数共用が行われていますね。

藤井 あとはTVホワイトスペース(470~710MHz帯)の共用も制度化されていますが、まだまだ本格的にダイナミック共用技術が使われているとは言えません。まだ規模が小さく、周波数共用が可能な地域・時間の管理の完全自動化もできていないというのが現状だと思います。今後に向けては、周波数の自律的な共用を実現していくことが重要です。

――藤井研究室では、それに資するコグニティブ無線や無線環境データベース構築等を長年にわたり研究されています。

藤井 周波数共用のシステムを広く導入していくにあたっては、電波天文や地球観測衛星のように電波信号を受動的に受信するだけのシステムへの干渉も考慮しなければならず、そのための技術開発も必要です。

米国ではNSF(国立科学財団)において、電波天文学者やFCC(連邦通信委員会)なども巻き込んだ議論が始まっています。周波数が逼迫する中、そうした検討が世界的にも進んでいくと見ています。

――近年話題のNTN(非地上系ネットワーク)についてはどうですか。

藤井 我々は人工衛星を活用した電波監視の研究に取り組んでいます。

低軌道衛星からは、地上の電波信号をかなり綺麗に見ることができ、それを使って地上の電波状況状態を把握します。

例えば、違法な電波を発見したり、どの地域でどれくらい電波が使われているかの可視化などが実現可能になると考えています。電波の利用状況をマクロに把握できるようになることで、周波数割当の検討にも利用できるかもしれません。

――将来的には、ダイナミック周波数共用にも利用できそうですね。

藤井 そうですね。今は、どれくらいの分解能が実現できるのか、といった検討を始めたところです。

藤井 威生(ふじい・たけお)氏

1974年東京生まれ。1997年慶應義塾大学理 工学部 電気工学科卒業、2002年同大学院 理工学研究科 電気工学専攻 後期博士課程修了。2006年に電気通信大学 先端ワイヤレス・コミュニケーション研究センター 助教授、2015年に同教授。博士(工学)

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