6G時代のCPSを支える「時空間同期」 無線・分散型へ進化する次世代の時刻同期

産業・社会インフラを下支えしている時刻同期技術が、6G時代へ向けて進化する。モバイルデバイスが高精度な時刻情報を持ち、互いの位置関係も把握できるようにする「時空間同期」の開発が進んでいる。

時刻同期との違いは「分散型」

時刻同期に関しては、同期精度がミリ秒レベルのNTP(Network Time Protocol)と、ナノ~マイクロ秒レベルのPTP(Precision Time Protocol)技術が確立されており、測位システムとしてはGNSS(全球測位衛星システム)が広く活用されている。現時点でもそれらを活用すれば、有線接続の範囲内ではデバイス間で時刻を合わせ、位置情報とともにCPSへ収集・分析することは可能だ。

NICTが開発する時空間同期は、これとどう違うのか。

1つが無線化だ。現時点では、PTPレベルの正確な時間を持つ方法が移動体デバイスにはなく、高精度時刻同期の無線化によってこれを解消する。

そして、さらに重要な要素が、同期システムのロバスト性(堅牢性)やレジリエンシー(回復力)の獲得だ。現在の時刻同期や測位システムは、その基となるGNSS信号が受信できない状態では使えなかったり、精度が著しく劣化したりする。主任研究員の原基揚氏は「複数のデバイスが協調して何かを作り上げるような環境では、ロバスト性やレジリエンシーが絶対的に必要。それを確保する」ことが時空間同期の研究開発の大きな目的だ。

情報通信研究機構 電磁波研究所 電磁波標準研究センター 時空標準研究室 主任 研究員 原基揚氏

情報通信研究機構 電磁波研究所 電磁波標準研究センター 時空標準研究室 主任研究員 原基揚氏

その鍵となるのが「分散型のアプローチ」だ。従来の時刻同期と時空間同期の決定的な違いがここにある。

NTPやPTPは、ネットワーク上のデバイスの時刻を世界協定時に基づいた正確な時刻に合わせる仕組みだ。GNSSや原子時計から取得した基準となる時刻をリーダー(Master Clock)が端末へ配信し、ズレを補正する(図表2の左)。リーダーへの依存度が高いこと、配信時に遅延誤差が積算されること、そして単一障害点の存在が課題となる。

図表2 従来型の時刻同期と分散型時刻同期アーキテクチャ

図表2 従来型の時刻同期と分散型時刻同期アーキテクチャ

これに対し、図表2の右側のように「時空間同期では各デバイスが比較的正確な時刻を持ち、それを共有し合って位置情報とともに修正していく」(原氏)。必ずしも世界協定時に合わせるのではなく、必要な範囲内で各デバイスが同じ時刻と位置情報を共有できるようにする。

原子時計をチップサイズに

このアーキテクチャー転換をどのように実現するのか。

時空標準研究室 室長の井戸哲也氏は、次の3つの技術が連携することで時空間同期が可能になると説明する。チップスケールの原子時計「CLIFS」、無線による時刻・位置情報共有技術「ワイワイ(Wi-Wi)」、分散型時刻管理技術「クラスタークロック」だ(図表3)。

図表3 高精度時空間同期を実現する3つの柱

図表3 高精度時空間同期を実現する3つの柱

情報通信研究機構 電磁波研究所 電磁波標準研究センター 時空標準研究室 室長 井戸哲也氏

情報通信研究機構 電磁波研究所 電磁波標準研究センター 時空標準研究室 室長 井戸哲也氏

CLIFS(Chip-Level-Integrated Frequency Standard)は、各デバイスが持つ時刻の精度を高める技術である。簡単に言えば、原子時計をチップレベルまで小型化し、IoTデバイスに搭載する。

現在は消しゴムサイズの原子時計を開発中で、「2026年度からはボードへの実装も見据えて、1cm角のボックスに収まるサイズを目指して小型化する」(原氏)。2030年以降もさらに小型化と価格低廉化を目指し、最終的にはスマートフォンやドローンなど、あらゆるデバイスに原子時計チップが搭載される世界を目指すという。

多くのデバイスに原子時計が実装されれば、センサー/デバイス群の時間軸を揃え、デジタルツインに正確な時間軸を持たせることができる。そこでシミュレーションした結果を、現実世界へリアルタイムにフィードバックすることも可能になる。

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