<連載>ミリ波のチカラ -超高速通信がもたらす新しい体験-[第4回]ミリ波の“ネガティブバイアス”を突破せよ【後編】

「電波が飛びにくい」「地形や建物の影響を受けやすい」「雨や雪で不安定になる」といった、ミリ波の“使いにくい”イメージは果たして真実なのか。後編では、ミリ波の“ネガティブバイアス”を克服するための5つめの視点と、実フィールドで検証したミリ波の実力をレポートする。

商用フィールドでミリ波の実力検証

次に、実際の商用フィールドにおけるミリ波の実力を見てみよう。

■Scene1:ミリ波スタンドアローンCPE

図表5は、福島県田村市で実施したミリ波スタンドアローン(ミリ波単独接続するモード)によるFWA用CPEの伝送試験の様子である。CPEからみると遠く点のように見えるのが5Gミリ波基地局だ。

図表5 FWA 用CPE 伝送試験(福島県田村市)

図表5 FWA 用CPE 伝送試験(福島県田村市)

基地局から300~600mと比較的近い場所でも、1.1km離れた地点でも、見通し(LOS)が確保できれば、ミリ波スタンドアローン利用でダウンリンク(DL)2.5Gbps、アップリンク(UL)500Mbpsが安定的に計測できる。

■Scene2:ENDC(LTE+ミリ波)

次に、東京駅前の丸の内広場において、ミリ波搭載のAndroidスマホで実測した(図表6)。

図表6 東京駅前丸の内広場の計測地の様子

図表12 東京駅前丸の内広場の計測地の様子

平日昼間の比較的空いている時間帯であったこと、LOSが近距離で確保できる好条件下であったことから、DL 2.0Gbps、UL 540Mbpsを計測した。この時のスマホはENDC、つまり、アンカーバンドのLTEと5Gミリ波の組み合わせでの結果である。

■Scene3:NRDC(Sub6+ミリ波)

3つめは、こちらも人口密集地である新橋駅前SL広場にあるTDH Sharing Poleに搭載されているミリ波基地局での測定結果だ(図表7)。

図表7 新橋駅前SL 広場のミリ波基地局

図表7 新橋駅前SL 広場のミリ波基地局

ミリ波搭載のAndroidスマホを手にSL広場を歩きながら実測してみたところ、ほぼすべての地点でDL 1.9~2.5Gbps、U L 95~100Mbpsを記録した。ボディロスなどにより速度が低下する場面もあったが、その高速性はSub6の比ではない。この時のスマホの接続モードは、5GSA-NRDC、つまり、5GSA Sub6+ミリ波の組み合わせでの結果である。

このように、5Gのもともとの目標値に近い超高速通信を実現するミリ波は、すぐそこにあることがわかる。

一般的なモバイルネットワーク分析では、5Gスマホの実力はDL 170~180Mbps、UL 20~30Mbpsと言われている。これらと今回のミリ波実測値を比較すれば、その高速性が桁違いであることは明らかだ。

特に、Scene1のミリ波スタンドアローンCPEの場合は、DLだけでなくULもビームフォーミング技術を駆使できるため、実フィールドにおいて基地局から離れた場所でも、256QAM等高MCSを維持できる。すなわち、超高速ULの実現だけでなく、周波数利用効率の良さも際立っている。

もはや「ミリ波は使えない」という議論に意味はなく、現在は「どこで使うのか?」「どのように使うのか?」という実用フェーズへと移行している。

次回は3Dシミュレーションやユースケース提案を通じて、ミリ波の社会実装の可能性をさらに掘り下げる。

酒井尚之(さかい・なおゆき)
ソフトバンク所属。2000年よりモバイルネットワーク(3G/4G/5G)の設計および最適化技術に従事。現在もシニアネットワークディレクターとして、新たな通信技術を当たり前に使う世界観をつくるために活動中

安藤高任(あんどう・たかとう)
ソフトバンク所属。Massive MIMO/SDMA/Beam Formingなど、先端モバイル技術のTechnical Meister。「お客様HAPPYのための技術開発」を信条に、2G~5Gモバイル通信の進化を技術開発からリードし続ける。現在、ミリ波が真価を発揮する5Gの世界を社内外で牽引中

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