<連載>ミリ波のチカラ -超高速通信がもたらす新しい体験-[第4回]ミリ波の“ネガティブバイアス”を突破せよ【後編】

「電波が飛びにくい」「地形や建物の影響を受けやすい」「雨や雪で不安定になる」といった、ミリ波の“使いにくい”イメージは果たして真実なのか。後編では、ミリ波の“ネガティブバイアス”を克服するための5つめの視点と、実フィールドで検証したミリ波の実力をレポートする。

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前編(連載第3回)は、5Gミリ波のネガティブなイメージを覆す4つの視点を紹介した。今回は5つめの視点として、「雨や雪で通信が不安定になる」というミリ波のイメージを払拭する通信試験結果を紹介する。

図表1は、ITU-R p.838-3による降雨減衰を示したものだ。10GHz以上の周波数帯で降雨減衰が増大することを示しているが、筆者はこれを、5Gミリ波MassiveMIMOに素直に適応すべきものではないと考えている。

図表1 ITU−R p.838-3による降雨減衰

ITU−R p.838-3による降雨減衰

なぜなら、これはエントランス無線などの高信頼通信装置のバックホール回線に適応するもので、回線断をスリーナイン(99.9%)という高品質で考慮する際に適応すべきであるからだ。

対して、5Gミリ波の場合は、より低い周波数帯を具備したマルチバンドが手厚く品質をサポートしている。

さらに、実際に降雨/降雪による減衰を評価してみると、悪天候時であっても一定の品質を担保できることがわかる。図表2~4は、29GHz帯の降雨/降雪減衰試験の結果だ。親局から260mおよび1270m離れた受信点呼局で減衰量を測定した。

図表2 29GHz 降雨/降雪減衰試験の試験環境

図表2 29GHz 降雨/降雪減衰試験の試験環境

降雨減衰もなんのその

無線通信に用いられる変調割り当てはMSC(Modulation and Coding Scheme:変調方式と符号化方式)と、SINRのテーブルで決まる。この試験では、確かに降雨降雪減衰は生じるが、1270m離れた子局2では、前が見えなくなるような降雪時にもSINRが20dBに保たれ、64QAMの変調が割り当てられていた。さらに、UEのHPUE(HighPowerUE)対応やUL BeamFormi ng技術の実装など、環境の影響を排除可能としている。

図表3 29GHz 降雨/降雪減衰試験の結果(1)

図表3 29GHz 降雨/降雪減衰試験の結果(1)

 

図表4 29GHz 降雨/降雪減衰試験の結果(2)

図表4 29GHz 降雨/降雪減衰試験の結果(2)

このように、5Gミリ波はネガティブなバイアスを確実に打破できる状況になってきている。ミリ波ネットワークを提供する側は、この恩恵をユーザーに届けていくべきだ。

酒井尚之(さかい・なおゆき)
ソフトバンク所属。2000年よりモバイルネットワーク(3G/4G/5G)の設計および最適化技術に従事。現在もシニアネットワークディレクターとして、新たな通信技術を当たり前に使う世界観をつくるために活動中

安藤高任(あんどう・たかとう)
ソフトバンク所属。Massive MIMO/SDMA/Beam Formingなど、先端モバイル技術のTechnical Meister。「お客様HAPPYのための技術開発」を信条に、2G~5Gモバイル通信の進化を技術開発からリードし続ける。現在、ミリ波が真価を発揮する5Gの世界を社内外で牽引中

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