都心で抜群のアクセス
東京メトロは、鉄道事業者のなかでも最初期に光ファイバー心線提供サービスを開始した事業者の1つだ。
1997年の電気通信事業法改正により規制が緩和され、通信業界における競争が激化したことが契機となった。東京メトロの西山慧氏は、「90年代末の都心部では光ファイバー需要が急速に高まっており、事業性が見込めると判断した」と当時を振り返る。同社は当初から需要の増加を見据えて光ファイバーを敷設したという。

東京メトロ 都市・生活創造本部 ビジネスサービス事業部 コミュニケーションサービス担当 課長補佐 西山慧氏
現在、東京メトロの光ファイバーは銀座線、丸ノ内線、日比谷線、東西線、千代田線、有楽町線、半蔵門線、南北線、副都心線の全9路線に整備。都心を縦横に走る地下鉄ネットワークを基盤に、各方面に複数の接続ポイントを持ち、データセンターやオフィスビルへのアクセス性が高い。とりわけ、大手町・丸の内・有楽町エリアなどデータセンターが集積する地区への接続性が良好で、同エリアに光ファイバー網を有する通信事業者・丸の内ダイレクトアクセスとも相互接続しており、NTT東日本線との接続ポイントも多数有している。
このように敷設済みの光ファイバーを活用することにより、都心のネットワークを低コストかつ短期間で利用できることが最大の強みだ。契約を締結後、心線の引き渡しまでは100日間を標準としており、短期間での構築が可能である。
また、「鉄道の相互直通運転と同様に、光ファイバーも相互接続している」と、同社の清水新治氏が説明する通り、東急、東武、小田急、都営地下鉄各社の光ファイバーと相互接続し、郊外へもネットワークを広げているのも特徴だ。他社線を経由し、データセンターが集積する千葉県印西エリアへのルートとしても活用できる。

東京メトロ 都市・生活創造本部 ビジネスサービス事業部 コミュニケーションサービス担当 課長 清水新治氏
東京メトロの光ファイバー心線提供サービスの主要顧客は通信事業者であり、データセンター間を結ぶルート構築に利用されることが多いという。ユースケースとしては、一般企業や自治体、教育・医療機関等への光ファイバー提供を想定(図表2)。河川をまたぐルートを構築する際、地上ルートでは橋等の限られたルートでの構築となり、経路を迂回せざるを得ないことも多い。一方、既設の地下鉄トンネルを経由すれば、短距離かつ簡便にルートを構築できる点も通信事業者から評価されているとのことだ。
図表2 地下鉄光ファイバー心線の想定ユースケース

“独立”してスピーディに展開
JR西日本は2021年7月、光ファイバー心線提供を専門に行う子会社「JR西日本光ネットワーク(JRWON)」を設立した。JRWONの室谷真平氏は、「通信需要が急増する中で、鉄道インフラが社会課題の解決に貢献できると考えた」と語る。

JR西日本光ネットワーク 営業部 担当部長 室谷真平氏
分社化以前は心線提供までに時間を要することが課題だったという。そこで、通信事業者のスピード感に追従するために分社化を決断。近鉄や阪神電鉄など先行する鉄道事業者に学びながら会社を立ち上げ、専業会社として機動的にサービスを展開している。
JRWONは関西圏を中心に、山陽新幹線および在来線沿線の光ファイバーを提供している(図表3)。
図表3 JR西日本光ネットワークの提供エリア(関西エリア)

特に、大阪環状線の内側に位置する堂島エリアなど、データセンターが集中する地区へのアクセス性は高い。
同社は登録電気通信事業者でもあり、駅構内から鉄道敷地外への延伸も可能だ。これにより、顧客ビルやデータセンターへの直接接続を自社で担える点が強みとなっている。
他社回線との相互接続については、東京方面においては新大阪駅でJR東海の東海道新幹線ファイバーと接続し、東阪間の大動脈を構成。九州方面ではJR九州の光ファイバーと接続し、九州新幹線の鹿児島中央駅まで到達している。私鉄各社とも連携し、奈良・三重方面など広い路線網を持つ近鉄ケーブルネットワークや、神戸方面へ延びる阪神ケーブルエンジニアリングの光ファイバーと接続。近鉄を経由して三重・鵜方の海底ケーブル陸揚げ局にも接続している。
JRWONは今後のエリア拡大計画を公表しており、2027年度をめどに岡山~児島間の整備を進め、瀬戸大橋線を経由してJR四国との接続が予定されている。さらに2033年度にかけて、山陰地方や紀伊半島方面にもファイバー網を拡充する。













