Kuiperは2025年度内提供へ

NTTドコモビジネスは米Amazonの「Project Kuiper（以下、Kuiper）」を国内の法人向けに提供するための準備を進めている。Kuiperは公称下り最大1Gbps、上り最大400Mbps（高性能端末の場合）という高スループットに加え、インターネットを経由せずにAWSにアクセスできるなどの特徴を備えており、僻地や災害時でもセキュアにクラウドサービスを利用できる手段として注目されている。

NTTドコモビジネス プラットフォームサービス本部 クラウド&ネットワークサービス部 第二サービス部門 担当課長の小島利昭氏によれば、サービス開始は2025年度内を予定しており、現在Amazonと協議中だという。PoCも今後実施する。「より低遅延で安定した通信が提供できるため、ミッションクリティカルな業務を行う顧客をターゲットに想定している」と同部門スペシャリスト（宇宙領域）の田中俊光氏は説明する。

また、同社 ビジネスソリューション本部 ソリューションサービス部 デジタルイノベーション部門 担当課長の阿部隆一氏は、「万能のNTN（非地上系ネットワーク）はない」と話す。NTTドコモビジネスは、KuiperやStarlink、そしてHAPSも含め、用途や経済性、セキュリティ要件に応じて最適なNTNを提供していく方針だ（本項の内容は2025年6月30日の取材日時点での情報をもとに記載）。

（左から）NTTドコモビジネス プラットフォームサービス本部 クラウド&ネットワークサービス部 第二サービス部門 担当課長 小島利昭氏、同部門 スペシャリスト（宇宙領域） 田中俊光氏、ビジネスソリューション本部 ソリューションサービス部 デジタルイノベーション部門 担当課長 阿部隆一氏

楽天は“フルサービス”で対抗

LEO衛星とスマートフォンとの直接通信もStarlinkが先行したが、楽天モバイルは、米AST SpaceMobileと提携し、スマートフォンと衛星の直接通信を2026年第4四半期に「Rakuten最強衛星サービス」として商用化することを予定している。

提供当初からSMS・音声・データ通信を一体で提供する方針で、スマートフォンの可能性を大きく広げる。2025年4月には国内で初めて、LEO衛星を介した市販スマートフォン同士のビデオ通話の実証に成功した。

法人用途としては、災害時や通信困難地域での緊急連絡手段に加え、IoTとの連携も想定。具体的には、「山岳地帯での災害予防・早期把握、害獣生態把握による被害削減、離島・山間部などへのドローン配達」（楽天モバイル 先端技術開発統括部 ヴァイスディレクターの河炯敏氏）の通信確保といったユースケースが検討されている。

（左から）楽天モバイル 先端技術開発統括部 ヴァイスディレクター 河炯敏氏、同部 ヴァイスジェネラルマネージャー 松井譲氏

こうした想定の背景には、AST SpaceMobileの衛星「BlueBird」の技術的特徴がある。大型のフェーズドアレイアンテナを備え、LEO衛星としては比較的高い軌道に配置できるため、少ない衛星数で広域をカバーでき、ハンドオーバーも少なくできる。また、高利得設計により「より高いスループットを提供する上でも有利」（同部 ヴァイスジェネラルマネージャーの松井譲氏）。実験では下り14Mbpsのスループットを記録している。Starlink Directが現状SMS送受信にとどまるのに対し、ASTは音声通話や動画ストリーミングにも対応可能な帯域を提供しうる。

LEO衛星通信サービスの選択肢が広がり、要件に応じて選べる時代がまもなく訪れる。