トラフィック対策の鍵握る「HetNet」――小セル追加でLTEの処理能力が倍化

HetNetがLTEのネットワーク容量拡大の有力な手段として注目を浴びている。ドコモは3.5GHz帯にHetNetを活用、IMT-Advancedで100倍超の容量を持つネットワークを構築する意向だ。

昨年12月の日本のモバイルデータトラフィックは前年同期比2.2倍を記録した(総務省調べ)。言うまでもなく、スマートフォンやタブレット端末の急速な普及によるものだ。この劇的なトラフィックの伸びに対応できるネットワークをどのようにして整備するかは、移動通信キャリアの喫緊の課題である。

移動通信インフラベンダー大手のノキアシーメンスネットワークス(本社・フィンランド、NSN)の日本法人でソリューションビジネス事業本部長を務める小島浩氏は次のように指摘する。

「今後も年2倍の伸びが続けば、モバイルデータトラフィックは10年で1000倍になる。これを収容するには、無線システムの高度化、運用周波数帯域の拡張、ネットワークアーキテクチャの変更などを組み合わせていく以外にない」

3番目の「ネットワークアーキテクチャの変更」を実現する手法として注目されているのが、HetNet(Heterogeneous Network)である。

大セル内に小セルを並存

HetNetは、同一エリア内に、セル半径や方式の異なる無線システムを並存させ、相互に協調することでネットワーク容量の拡大を実現しようする手法の総称である。名称自体は「不均質な」ネットワークを意味する。

HetNetには、3G/LTEと無線LANを組み合わせるようなものも含まれるが、現状ではこの言葉は、主に半径数百m以上をカバーする大セル(マクロセル)基地局のエリアの中に、よりカバーエリアが狭い小セル(マイクロセル/ピコセル/フェムトセル)基地局を重層させるネットワークの意味で使われることが多い。ここでも特に明記しない場合、HetNetをこの意味で用いる。

携帯電話のネットワークは、広い面積を効率的にカバーできる大セル基地局を中心に構築されてきたが、トラフィックの増大に伴い、ネットワーク容量が稼げる小セル基地局の導入が進んでいる。

しかし、小セル基地局で面的なエリアを整備するには、多くのロケーションの確保が必要となる。また、小電力の小セル基地局には不感地が生じやすいという弱点もある。

そこで、大セル基地局で面的なエリアを整備した上で、その中で特にトラフィックの集中する地区にホットスポット的に小セル基地局を設置し、トラフィックをオフロードする手法が多く採られるようになっている。これによりローコストでネットワーク全体のキャパシティを向上させようというのが、HetNetのコンセプトだ。

この種のネットワークは、大セル基地局と小セル基地局で別の周波数を使えば、比較的容易に実現できるが、実際には小セル基地局に専用の帯域を確保できない事業者が少なくない。また、10~20MHz幅という広い帯域を使って、高速・大容量のデータ通信を実現するLTEでは、帯域を大セル基地局と小セル基地局用に分割して用いることは、必ずしも得策とはいえない。

そこで登場してきたのが、電波干渉を回避することで、大セル基地局と小セル基地局が同一周波数を使えるようにするICIC(Inter-Cell Interference Coordination:セル間干渉制御)と呼ばれる技術だ。

ICICは、昨年策定された3GPPリリース10で標準化がなされており、現在は、策定中の3GPPリリース11でその拡張仕様となるeICIC(enhanced ICIC)の検討が進められている。ここではこの2つを合わせてeICICと表記する。

3GPPリリース10/11では、LTEの発展系となる第4世代携帯電話LTEAdvancedの技術要素の標準化が行われているが、eICICもその1つだ。また、通常HetNetというと、このeICICを使うネットワークを意味することが多い。

月刊テレコミュニケーション2012年9月号から再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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