米国のネット中立性は果たして復活するか 2024年オープンインターネット命令[前篇]

インターネット上の様々なトラフィックは公平に扱われ、優先されたり遮断されてはならないとするネットワーク中立性の考え方。米国における中立性ルール復活の動きを全2回で詳しく解説する。

5.2024年命令

2024年オープンインターネット命令は、そのコアの部分で、2015年命令を忠実になぞってその内容を復活させるものとなった。これは、①BIASのサービス分類についての宣言的決定、②同サービスの通信法タイトル2規制差し控えの命令、③オープンインターネット規則の命令の3つがその主な内容となる(図表5)。

図表5 2024年オープンインターネット規則(連邦規則タイトル47パート8)抜粋

図表5 2024年オープンインターネット規則(連邦規則タイトル47パート8)抜粋

(1)BIASの「電気通信サービス」への再々分類

第一の「宣言的決定」では、FCCは、2015年命令での考え方と同様に、BIASを「電気通信サービス」に分類することは、法の最良の読み方によるものとして、これを通信法の当然の解釈の結果であるとした。そして、これとは別に、重要な政策の検討からもこの結果が支持されると結論づけたとしている。それは主として、BIASについてFCCの規制やモニターが可能になることに着目した主張であり、特にインターネットのオープン性を確保し、国家安全保障を守り、サイバーセキュリティを促進し、公共安全を守り、ネットワークのレジリエンシーとリライアビリティをモニターし、消費者のプライバシーとデータセキュリティを保護し、消費者のBIASへのアクセスをサポートし、改善するという法の義務と政策目的をFCCが満たすことができるようにするものだとしている。結果として9年前と同じ内容の命令だが、2024年の今日的課題にも応えるものだと主張している。

通信法の法解釈として、トランプ時代の2017年命令でポイントの1つとなったのは、ウェブサイトアドレス(ドメイン名)とIPアドレスとをマッチさせるDNSとキャッシングが情報の「処理」にあたり、これが統合されていることがBIASが「情報サービス」とされた論拠とされていたわけだが、2024年命令では、DNS及びキャッシングは、情報の「処理」にはあたるが、その役割は、通信法の「情報サービス」の定義上同サービスに「含まない」とされる「電気通信システムの管理」に当たるので、BIASはこれによって「情報サービス」に該当することにはならないと判断している。この考え方も2015年命令を踏襲している。

なお、このBIASに、ネットワークスライシングまたはネットワークスライシングを通じたサービスが含まれるか否かが今回注目されたが、その潜在的ユースケースがまだ開発途上であるとして、FCCは今般それがBIASかどうかの分類をしないとした。他方、ネットワークスライシングがオープンインターネットルール回避のために使われることは許容しないこと、当面は、MNOにおいて、スライシングの利用方法がBIASに該当しないか評価し、それが該当する場合には、行為規制に触れないようにすべきだとした。

また、関連して、インターネットトラフィック交換については、BIASから派生するトラフィックであり、「電気通信サービス」に関する活動として、通信法第201条(b)の適用を受けて、「適切で合理的」でなければならないとした。これは、相互接続の条件変更を通じてエッジプロバイダーが排除されないように、接続のルールで対応するとしたものだ。

なお、2017年RIF命令で問題となった州法との関係については、「宣言的決定」は、FCCには連邦ルールを専占させる権限があると述べつつも、現在のカリフォルニアの州法は今般の連邦のルールとよく適合するものであり、一般的に専占させる必要はないとし、州で連邦と異なる判断がある場合に個別的に専占させることとしている。

「宣言的決定」では、また、近年の判例で示されている「重要問題法理」が司法の場で採られる場合でも本命令は影響を受けないということを述べている。これについては、次回後篇で述べるが、FCCが法廷での争いにすでに警戒感を持っていたことがよく分かる。そして、その警戒は、決して杞憂に過ぎないものではなかったことが程なく分かることとなった。

(2)規制差し控えの命令

次にFCCでは、「電気通信サービス」であれば適用対象となる通信法タイトル2の各規定やその他の規定について、必要最小限の適用とするために、どの規定のどの部分を適用させ、どこの適用を差し控えるかを、逐次説明を行いつつ決定した。

RELATED ARTICLE関連記事

SPECIAL TOPICスペシャルトピック

スペシャルトピック一覧

NEW ARTICLES新着記事

記事一覧

FEATURE特集

WHITE PAPERホワイトペーパー

ホワイトペーパー一覧
×
無料会員登録

無料会員登録をすると、本サイトのすべての記事を閲覧いただけます。
また、最新記事やイベント・セミナーの情報など、ビジネスに役立つ情報を掲載したメールマガジンをお届けいたします。