世界最大のモバイル/ワイヤレス展示会「MWC(モバイルワールドコングレス)2012」が2月27日から4日間にわたって、スペイン・バルセロナで開催された。地下鉄・バスなどのストライキが計画され、一時開催が危ぶまれたが直前で回避され、世界各国から例年を上回るビジネスパーソンが集まり、街中がにぎわった。
MWCは、ワンポイントでグローバル商談ができる点が特徴となって世界中の主要キャリア・メーカー・ベンダーが競って新サービス、新製品発表の場に選ぶようになっている。
今年は過去最大級の規模となり、過去最高の205カ国の6万7000人が駆けつけた。来年は2.5倍の規模の大型会場に移行することから、現会場では最後の開催となった。来年もすでに予約で90%埋まっているとの情報もある。
このイベントは主要グローバルプレイヤーが多大なコストと労力をかけて自らの最新商品と事業の方向性を開示することから、市場の行方を占うものとなっている。
MWC2012の特徴を整理し、今後の市場の方向性を分析してみたい。(1)端末、(2)ネットワーク、(3)プラットフォーム/アプリケーションに分けると状況が掴みやすい。順番に見て行く。
スマートフォン/タブレットの新展開
MWCは、もともとはヨーロッパ発の通信規格GSM方式の技術・製品の発表及び交流の場として始まったが、GSMが事実上のグローバルスタンダードとして世界中に普及するなかで、北米のcdmaや日本発のPDCに対するGSM陣営の結束の場ないしビジネス商談の場となってきた。
特にノキアを先頭にするGSM方式を基盤とする携帯電話メーカーの「携帯電話最新機種発表会」として年々活性化してきた。ここで発表される新製品がその年のグローバルトレンドを決めるものとして注目され、実際各国の市場を牽引するというサイクルだ。
この基調が一変したのが、2年前の2010年2月だった。その1年半前のアップルのiPhone 登場を受けて、サムスン、ソニー・エリクソン、モトローラ、LGをはじめとする主要携帯電話メーカーが一斉にスマートフォンを展示し、さらにHTCなど新興勢力も登場し、「スマートフォングローバル時代」の幕を切って落とした。まさに歴史的な転換を示すものとして、大衝撃を与えた。
会場では旧来型の携帯電話機は影を潜め、どのブースでもスマートフォン新機種が並び、人々はそれに吸い寄せられた。携帯電話機の陳列を探すのが難しいぐらいで、主役はスマートフォンに取って代わられた。
肝心の盟主・ノキアはついにスマートフォンの発表が間に合わず、最も目立つホール2のセンターをサムスンに明け渡し、初めて出展自体を見送った。この異常な事態に、日本から駆けつけた通信キャリア幹部も時代の急流を見て、考え方を一変させたといわれている。
その翌年の2011年は、「タブレット百花繚乱」の光景となった。前年同様、会場のセンターを占めたサムスンは広い展示エリア全部を使い、100台をくだらない数の「GALAXY Tab」を並べ、物量で他を圧倒した。モトローラ、LGをはじめとするライバルメーカーも、ブラックベリーやファーウェイ、ZTEなども競ってタブレットを展示、まさにタブレット一色となった。
その後の世界市場の展開は「スマートフォン/タブレット新時代」を招来していることは言うまでもない。もちろん、背景には、iPhone/iPadの市場牽引がある。2年間のうちに、市場の商品とメインプレイヤーは様変わりしてしまった。
今年2012年は、そういう劇的な変化とか歴史的な構造転換というよりは、スマートフォン/タブレット時代がさらに定着し、主要プレイヤーも大きな変化はなく、さらに製品の進化・拡大が進む展開となった。ただし、グローバル競争は確実に熾烈化しており、プレイヤーの消長も徐々にはっきりしてきた。
端末市場における、今年の最大のトピックスは、スマートフォン次世代機が一斉に登場したということだ。クアッドコアプロセッサー搭載が最大のテーマで、より高機能化、高速処理、高精細化に向けた進化のステップが進み始めている。さらにスマートフォンの課題の1つである電池寿命への取り組みも進んでいる。
クアッドコアプロセッサー搭載の次世代機は、サムスン、ファーウェイ、ソニー、HTCなどから次々と発表された。富士通も参考出展を行った。なかでも、ファーウェイが自社開発のクアッドコアプロセッサーの開発を発表したことが注目された。
端末市場におけるもう1つの焦点は、大体方向性が見えてきたスマートフォン市場に対して、まだまだ不確定要素の多いタブレット市場において、積極的な製品発表が相次いだという点だ。
iPadが軌道を敷いた10インチ型ではなく、一回り小さいか7インチ型など小型タブレット分野での製品発表が相次いだ。タブレットは、スマートフォンよりも多様な用途があることから、様々なタイプのものが出始めている。より小型でより薄くより軽くより高精細で、より使いものに向けた競争が始まっている。
会場のセンターで最大の展示ブースを誇るサムスンは今年もスマートフォン次世代機と小型タブレットの新製品で埋め尽くした。より使いやすくなったという点をアピール、意識的に用途とか利用シーンを訴求した。
サムスンを囲む形で出展しているLG、ファーウェイ、ZTEも同様に、スマートフォン新機種、タブレット新機種を中心にそれぞれのアピールポイントを生かしたブース展示を行った。
離れた会場にあるエリクソンのホールの一角でソニーも、同様にスマートフォン新製品とタブレット新製品を展示した。
ある意味で最大のニュースは、2年間にわたってMWCの会場に何の痕跡も残せなかったノキアがホール7というセンターからやや外れた会場だが、ホールを借り切らんばかりの巨大ブースを出し、「ノキア復活」の予兆を印象づけたことだ。
出展製品は、Windows PhoneをOSとするスマートフォン新機種と、「一見スマートフォンのようなフィーチャーフォン。フィーチャーフォンのようなスマートフォン」ASHを発表した。ノキアらしい作りで、まだまだ多いノキアファンに期待を抱かせるものだった。ノキアは復活してアップル、サムスンに席巻された市場を取り戻すことができるのか。三大OSの帰趨とも絡んで、かつての巨人ノキアの今後の動向は注目される。