通信業界では、マルチコア光ファイバーの実用化と、マルチモード光ファイバーの研究開発がホットトピックとなっている。
これら空間多重(SDM)技術は、光通信に飛躍的な進歩をもたらすが、普及には大きな障壁もある。世界中に張り巡らされた光ファイバーを引き直す必要があることだ。これにかかる手間・コストは甚大であり、通信事業者の広域ネットワーク等でSDMが一般的に使われるのは、かなり先のことになる。
そこで、マルチコア導入前のステップとして検討されているのが「マルチバンド」だ。新たな波長帯域を開拓して広帯域化する技術である。これなら、既存の光ファイバーに導入し、低コストに伝送容量を引き上げられる。
「直近、もしくは中期的に活用する技術としてマルチバンドの研究開発を進めている。それでも容量が不足するなら、次のステップとしてマルチコアの新インフラを作る。それでも足りないなら、マルチコアとマルチバンドの掛け算もあり得る」と、KDDI総合研究所の吉兼氏は語る。
光通信にもプラチナバンド?
光ファイバー通信で使われる波長帯は、波長の短いほうからO帯、E帯、S帯、C帯、L帯、U帯と呼ばれる(図表1)。すべて合わせると1260~1675nmの帯域(周波数では238~179THz)があるが、これまで主に使われてきたのはC帯(1530~1565nm)のみで、全体のほんの一部に過ぎない。
図表1 波長帯域と適用領域
C帯が使われてきた理由は、信号光の損失が少なく長距離・大容量伝送に適しているためだ。携帯電話ネットワークでいうプラチナバンドのようなものである。
低損失なのは隣のL帯(1565~1625nm)も同様で、最近はL帯を同時に使う伝送装置も商用化されている。
以前は、DSF(分散シフトファイバー)というL帯で波長多重伝送せざるを得ない特殊な光ファイバーに利用範囲が限定されていたが、「伝送容量が不足がちになってきたことで、世界的にもL帯を使うベンダーが増えてきた」(吉兼氏)。
C+L帯を商用化しているベンダーの1つが、2023年に「1FINITY L900/910/920 C+L-band WDMシステム」を発売した富士通である。同社 フォトニクスシステム事業本部 先行技術開発室長の星田剛司氏はこう語る。
「DSFでL帯を使う装置はかなり以前から商用化していたが、近年、より広い種類の光ファイバーでC帯とL帯を同時利用して伝送する技術が確立した。当社L900シリーズはその最先端にあると考えている」