小説やコミック、画像・映像など、あらゆるコンテンツ制作の現場に生成AIが浸透し始めている。コミックの分野では、AIを用いて制作された手塚治虫の“新作”がモーニング誌に掲載。小説においては、AIが作成した文章を用いた小説が「星新一賞」で入選した。そのほか、画像制作や翻訳等でAIを活用した事例は枚挙にいとまがない。
こうしたコンテンツ開発・制作において、生成AIは今後どのように活用されていくのか。NRIのITナビゲーター2024年版では「デジタルライフの未来」と題して、その影響を予測している。
コンテンツ市場で注目すべき2大トレンド
ICT・コンテンツ産業コンサルティング部 シニアコンサルタントの本多立駒氏は、生成AIの影響について述べる前に、現在の消費者のデジタルライフにおいて注目すべきトレンドとして、次の2つを挙げた。「倍速消費」と「推し消費」だ。
ICT・コンテンツ産業コンサルティング部 シニアコンサルタントの本多立駒氏
倍速消費とは、例えば動画の再生速度を速めるなどして、短時間に大量のコンテンツを視聴・閲覧する行動のことだ。推し消費はその対極にあり、特定のコンテンツを狭く深く味わう行動を指す。現在はこの両方が進展しており、NRIの調査では、倍速消費を行ったことがある人が直近1年で増加。推し消費に関しても、「1つのコンテンツシリーズに10万円以上を使った人の割合が拡大傾向にある」(本多氏)。
こうした消費者行動に呼応するかたちで、コンテンツ開発・制作者やプラットフォーマーでは新たなトレンドが見られるという。
消費者トレンドに呼応する供給側の変化
倍速消費の進展に対応する事業者トレンドとして本多氏が挙げたのが、「プラットフォーマーのコンテンツ開発への参入」だ。顧客接点を持つプラットフォーマーが、そこで入手したビッグデータを活用して「成功の法則」を分析し、その法則に基づいて作品を制作するという動きである。例えばNetflixは、顧客接点のデータからヒットするジャンルやキャスト、監督の組み合わせを検討し、それに基づくオリジナル作品を制作。他のプラットフォーマーにも同様の動きが広がっている。
一方、推し消費の進展に呼応するトレンドが、「新たな技術を用いたコンテンツ開発」である。VR/ARを使ったリアリティ溢れる映像コンテンツや、メタバースを利用した没入型ゲーム。さらには、「NFTによってコレクション性を持つデジタルコンテンツや、生成AIを使うことでキャラクターと自由に会話できるゲーム」といった、これまでにない体験価値を持つコンテンツが多数登場してきていると同氏は指摘した。