前回の「NFCで始まった金融と通信事業者の覇権争い」でも取り上げたが、今回は番外編として中国のNFCモバイル決済事情にフォーカスする。まずはNFCをめぐる中国でのこれまでの動きをまとめてみよう。
中国移動がRF-SIM断念で、NFCが中国統一規格に
実は、加入者数6億超と中国最大の携帯電話事業者であるチャイナモバイル(中国移動)が当初採用に動いたのはNFCではなかった。中国移動が推進したのは、RF-SIMという2.4GHz帯の電波を使用する独自の非接触型近距離通信技術だった。
中国移動は、昨年開催された上海万博の会場内で、RF-SIMによるモバイル決済の実証実験を実施。入場チケットや場内での買い物などが、RF-SIM対応スマートフォンで行えた。
一方、NFC陣営もこれを黙って見ていたわけではなかった。上海万博の期間中、上海エリアの商店街などでNFCを使ったモバイル決済の実証実験を行った。
その中心を担ったのは中国のオンライン決済会社、中国銀聯(CUP)グループである。中国銀聯は、中国の携帯電話市場で第2位のチャイナユニコム(中国連合)と第3位のチャイナテレコム(中国電信)と連合を組み、NFCの実証実験を実施した。このとき中国銀聯が採用したのは、SIMカードにNFCチップとSE(Secure Element)及び外部アンテナを装備した「SIMpass」という製品である。開発元は中国のWatchData社だ。
これが「SIMpass」。SIMカードにNFCチップと専用アンテナが付いている |
両陣営の戦いの決着は早々についた。上海万博が開幕した2010年5月、中国銀聯が中心となってNFCによるモバイル決済の推進団体「Mobile Payment Alliance」が結成されたが、18社のメンバーの中には中国移動の名前もあったのである。
中国移動がRF-SIMを断念した理由の1つはコストの高さだといわれている。既存ユーザーのSIMカードをRF-SIMに取り替える必要があるほか、リーダーの価格も独自規格ゆえ高価になる。また、中国移動はNFCに消極的な理由を「NFCにはエコシステムがない」と説明していたが、中国銀聯がNFCのエコシステム構築を強力に推進し始めたことで、この点でもNFCに乗らない理由はなくなった。
かくして、中国移動はRF-SIMを放棄し、中国国内におけるモバイル決済はNFCに統一されることになった。