通信業界で今、最も熱いテーマの1つが「低遅延」だ。5G URLLC(高信頼低遅延通信)もMEC(Multiaccess Edge Computing)もオール光のIOWNも、通信遅延をコントロールすることで、リアルタイム性が要求される産業領域へと通信ネットワークの適用範囲を広げようとしている。
遅延の制御は、無線通信が最も苦手とするものの1つだ。その意味で、セルラー通信で初めて低遅延性を特徴に掲げた5G URLLCの意義は大きい。だが、5G商用化から3年を経た今も、商用環境での実用例はない。NTTドコモ R&Dイノベーション本部 6G-IOWN推進部 アーキテクチャデザイン担当部長(取材当時)の澤田政宏氏は、「docomo MECも含めて、低遅延通信のユースケース開拓を推進し始めたところだ。他社も含めてマスに広がっている状況ではない」と話す。
NTTドコモ R&Dイノベーション本部 6G-IOWN推進部
アーキテクチャデザイン担当部長 澤田政宏氏(所属は取材当時)
一定周期に「ちゃんと届く」
標準化団体の3GPPは段階的に5Gの技術仕様を策定しており、URLLCは5Gの初期仕様であるRelease 15に続くRelease 16/17(2022年完了)で仕様化された。このR16/17仕様を実装した設備はこれから広域展開される。それとともにURLLCが使えるエリアが拡大していくことになる。
そしてもう1つ、「URLLCの一部」(澤田氏)であり、5Gを活用したリアルタイムアプリケーション開発を加速させるキー技術がある。「確定性通信」だ(図表1)。R17で「TSC(Time Sensitive Communication)」として仕様化された。
図表1 確定性通信とは
URLLCは無線区間の遅延短縮にフォーカスしたものだが、確定性通信は性格が異なる。「遅延のゆらぎがなく、確定した周期ごとにパケットを届け続ける技術」で、例えば、端末からエッジクラウドへ「1秒間に10回の周期で定期的に情報を上げ、指示を出すといったことに使う」。
このTSCは、産業用イーサネットで使われるIEEE 802.1 TSN(Time Sensitive Networking)を5Gに適用したものだ。TSNは時間の同期性を保証した拡張イーサネット技術で、製造現場で長年使われてきた。
具体的には、5Gネットワークを構成する各ノード間で時刻情報を同期し、その時計に従って「100msに1回」のように周期的にデータを転送する。現在標準化が進められている「R18でさらに拡張され、トランスポートレイヤーにも新機能が組み込まれ、より確実性が高まる」見込みだ。