高度200~1000kmの軌道を周回する低軌道衛星は、小型・軽量化が進み、打ち上げコストも大幅に低廉化した。このため、長距離伝送が可能なLPWAを搭載し、地上のネットワークが整備されていないエリアでのセンシングなどにも活用されている。
2024年に低軌道衛星で実証
ソニーグループが推進する「地球みまもりプラットフォーム」は、地球上のあらゆる場所をセンシング可能にすることで、異変の予兆を捉え、人々の行動変革を促すことをコンセプトとする。この構想において、低軌道衛星の活用が検討されている(図表1)。
図表1 「地球みまもりプラットフォーム」のイメージ
毎年、世界各地で台風や地震、噴火などの自然災害が発生し、大規模な被害をもたらしている。最近は環境破壊が地球のサステナビリティを脅かす深刻な課題だ。「人類が知らず知らずのうちに地球に悪い影響を与えている。センシングデータやAIによる解析結果で気付きを得て、見える形にすることで地球を守っていきたい」とソニーグループ テクノロジープラットフォーム Exploratory Deployment Groupの桐山沢子氏は説明する。
ソニーグループ テクノロジープラットフォーム Exploratory Deployment Group 桐山沢子氏
地球みまもりプラットフォームのコア技術となるのが、①超低消費電力エッジAIやセンシング技術、②超広域センシングネットワーク、③予兆分析の3つだ。
超広域センシングネットワークには、ソニーが開発したLPWA規格ELTRESが活用される想定だ。
ELTRESは、20mWと低消費電力で、見通し100km以上の長距離伝送が可能だ。実証実験では、天候や見通しの良さなど環境が整えば300km超を達成したこともある。さらに、新幹線のような高速移動体でも安定した通信を提供できる点を強みとする(図表2)。このため、「地球を約90分で一周するほど高速で移動する低軌道衛星との通信に適している」と桐山氏は述べる。ただ、低軌道衛星が周回するのは地上1000kmとさらに長距離だ。「減衰した信号レベルでも安定して受信可能にする技術を開発しているところ」(桐山氏)だという。
図表2 ELTRESによるIoTネットワークシステムの概要
ソニーは、超低消費電力エッジAIや、画像処理と高速なAI処理を単体で行えるインテリジェントビジョンセンサー「IMX500」などを有する。「これらの技術によってセンシングしたデータにAI処理をほどこし、画像をメタデータにして出力することで、消費電力やデータ量を削減することができる」(桐山氏)
また、センシングネットワークを通じて集めたデータをAIによって分析することで、些細な変化を予測することも可能になる。ここではソニーのAI予測分析ツール「Prediction One」が、役立てられそうだという。
ソニーが特にフォーカスしているユースケースが、自然災害だ。干ばつによる森林火災や異常気象による洪水の発生を早期に検知し、被害の拡大を食い止めるための実証実験をタイで行っている。
また、気候変動は農作物の生産に影響を及ぼすため、北海道大学とともに、農作物の生育状態をセンサーで検知し、作業の効率化や生産性向上につなげようとする共同研究にも取り組む。
人工衛星を実際に用いた実証実験も進んでいる。
2021年12月、上空400kmの軌道上を高速移動する国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」の船外実験プラットフォームに、ELTRESに対応した無線基地局を小型・省電力化した衛星無線実験装置を設置し、地上のIoTデバイスから送られた電波を受信することに成功した。実用化に向け、2024年を目途に低軌道衛星による実証実験を予定している。