コールセンターAIが“問題点”をハイライト表示
もう1つのAI活用例「コールセンターAI」も、リアルタイム性によって新たな価値を生み出したケースだ。加入者からの問い合わせに対応するコールセンター業務において、AT&Tは主に次の2つの点でAIを活用している。
1つが、リソースの最適化だ。加入者からかかってくる電話の頻度、さらには内容も予測することで、オペレーター人員の確保・配置を最適化する。自社で抱える、あるいは外部委託するオペレーターの稼働率を最適化し、人件費を適正化するのに役立つ。
2つめはパーソナライゼーション。加入者からの問い合わせ、質問に対してオペレーターが適切に回答できるように、自然言語処理の技術を活用してAIがオペレーターを支援したり、会話内容を分析したりする。
1つめの需要予測については、トラブルが発生した、あるいは発生しそうな地域を予測するだけでなく、コールセンターのオペレーターとの対話内容から、問題が解決せずに再度電話をかけてくる可能性が高い加入者も推測することで、予測の精度を高めている。
2つめにも関連するこの「トピックアイデンティフィケーション」は、一言で言えば、電話をかけてきた加入者が“何に困っているのか”を対話内容からリアルタイムに把握する技術だ。まず、会話をリアルタイムで書き起こし、オペレーターが見ている画面に表示。さらに、解決の糸口になりそうな箇所を自動的にハイライト表示することで、経験の足りないオペレーターでも問題を特定して適切な対応部署につなげやすくする。
また、コールセンターにかかってきた電話そのものを顧客満足度を測るための情報ソースとして捉え、話しぶりやオペレーターの回答に対する反応からAIが感情を分析。その満足度をスコア化している。
コールセンターのオペレーターは通信の専門家ではないうえ、電話をかけてきた加入者も、自身が陥っている問題を必ずしも的確に伝えられるわけではない。上記のようなAIによるアシストがあれば、そもそも聞き漏らしも減るし、会話を遡って確認することも容易だ。早い段階で適切な担当部署にスイッチすることで、顧客満足度は確実に高まる。
こうしたリアルタイムな応対の効率化に加えて、AT&Tは書き起こした会話内容の要約にもAIを活用している。大規模言語モデルで要約した結果と前記の感情推測と合わせて分析することで、顧客対応の改善やオペレーターの体制変更にも活かしているという。
コールセンターAIの活用はAT&Tに限ったものではなく、イラン氏によれば、ほかにもエヌビディアの対話型AI「NVIDIA RIVA」を活用して顧客エンゲージメントを強化している通信事業者が出てきているという。「生成AI機能を備えたインテリジェントなチャットボットは、顧客に迅速に情報を提供し、エージェントに行動を提案することができる。これは顧客離れを減らし、より良い顧客獲得につながる」
AI活用による通信事業者の変革が始まる
今回紹介したAT&Tの取り組みは、通信事業者のAI活用のほんの一例に過ぎない。冒頭で紹介した調査結果によれば、AI活用はまだ初期段階であり、今後、より高品質で安定したサービス提供や品質の向上といった面で、様々なAI活用の取り組みが具現化してくるだろう。
図表6 AI投資の重点領域
図表6のように多くの事業者が「ネットワークの運用」や、「カスタマーエクスペリエンスの最適化」「予知保全」などをAI投資の重点領域に挙げており、すでに一定の成果を挙げている通信事業者も出てきている。なお、この調査結果「通信事業者におけるAI活用状況:2023年トレンド調査」の詳細は、こちらですべて参照できる。
エヌビディアはAT&Tをはじめとする先進事例をベースに、日本の通信事業者のAI活用も強力に支援していく考えだ。「AIプロジェクトの費用対効果を評価する際、NVIDIA GPUとアクセラレータを使用することで、より速いトレーニングと推論時間を達成でき、かつ、より迅速なモデルの展開と価値ある洞察のスピードアップを可能にする」とイラン氏。この点は、AI活用の費用対効果とROIに直結する。
さらに、ベンチマークと性能テストのためのリソースとサポートも提供。AI実装の影響を評価できるようにする。「スピード、正確さ、リソース利用などの要素を測定することで、AIソリューションの効率性と有効性を洞察し、ROIを最適化するための情報に基づいた意思決定を行うことができる」と同氏は話す。もちろん、他業界で培ったAI活用に関するノウハウやアプリケーション、そしてソフトウェアベンダー等とのパートナーシップをベースとするエヌビディアのエコシステムも心強い助けとなるはずだ。
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エヌビディア合同会社
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