2011年春・夏のスマートフォンのラインナップで独自のポジションを占めるのが、KDDIが4月に投入した「htc EVO WiMAX」――日本では初となるWiMAXとCDMA2000のハイブリッド端末だ。
このモデルは、米国第3位の携帯電話事業者であるスプリント・ネクステルが昨年6月に投入し、半年で300万台を販売したヒット端末「HTC EVO 4G」を日本市場向けにアレンジしたものだ。最大の特徴は、3Gネットワークに加えて下り最大40Mbpsのデータ通信が可能なWiMAX網が利用できる点にある。
スプリント・ネクステルは、自らも出資するWiMAX事業者クリアワイヤの回線を調達し、自社のCDMA2000ネットワークと組み合わせたハイブリッド型のデータ通信サービスを展開している。EVO 4Gの投入で、このハイブリッド型サービスをスマートフォンにも拡大。昨年末にLTEを導入した業界トップのベライゾン・ワイヤレスなどとの競争に挑んでいる。
これと同様に、EVO WiMAXは、KDDIがUQコミュニケーションズの回線を利用して2010年6月から提供しているハイブリッド型データ通信サービスの仕組みを使って提供するもの。電波の状態に応じて2つの網を自動的に切り替えるため、シームレスな通信が可能だ。
テザリングを前面に打ち出す
KDDIがEVO WiMAXを導入したのには、大きく2つの狙いがある。1つは、サービス競争力の強化だ。WiMAXの高速性を活かしてスマートフォンの新たな利用法を提案し、新たな顧客の獲得を実現する。
4月にKDDIが 投入した日本初の WiMAXスマートフォン「htc EVO WiMAX」 | テザリングの設定画面。最大8台のWi-Fi機器が接続可能で、WEP、TKIP、WPA2の3種の暗号化に対応する |
KDDIでEVO WiMAXを所管するプロダクト企画本部プロダクトマネジメントグループの木下祐介氏は「WiMAXでは5~6Mbpsといった携帯電話ではあり得ない速度が当たり前のように出る。これを前面に打ち出していく」と意気込む。実際、動画や大容量のアプリケーションをダウンロードするのに、WiMAXはCDMA2000回線を使う場合より格段にスムーズだ。
とはいえ、スマートフォンの場合、現状では端末の処理能力やディスプレイサイズに制約があること、アプリにもさほど通信速度を要求するものがないことなどから、高速性のメリットを訴求するのは意外に難しいという。そこで、KDDIが利用提案の目玉として打ち出したのが「Wi-Fiテザリング」だ。スマートフォンにWi-Fiモバイルルーターの機能を持たせることで、1本のモバイル回線でノートPCやゲーム機などの複数のWi-Fi機器をインターネットに接続できるようになる。
スマートフォンの他に、例えばノートPCや携帯ゲーム機など複数の情報機器を使用するユーザーにとっては、(1)データ通信用の端末が1つになって持ち運びや管理が手軽になり、(2)回線も一本化することで通信コストが節約できるといったメリットがある。
反面、この機能を提供するには、懸念もある。PC等から大量のトラフィックが発生し、ネットワークの帯域が逼迫してサービス品質が低下する可能性がある。また、料金設定次第ではデータARPUが減収になりかねないという問題もある。そのため、携帯電話事業者はこれまでスマートフォンへのWi-Fiテザリングの実装に慎重な姿勢を見せてきた。KDDIも現時点では、スマートフォンでこの機能に対応しているのはEVO WiMAXだけだ。