<特集>モバイル強靭化フルローミング方式の早期導入決定 障害時もつながるモバイル

フルローミング方式での事業者間ローミングの早期導入が決まった。緊急呼だけにとどまらない、一般呼やデータ通信も含むローミングだ。高信頼なモバイル網の実現へ、今後どう展開していくのかを解説する。

KDDIの通信障害をきっかけに総務省で始まった、「非常時における事業者間ローミング検討会」の第1次報告書が11月15日の第4回会合でまとまった。

NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの4キャリアは、一般呼やデータ通信、警察や消防など緊急通報受理機関からの「呼び返し」が可能なフルローミング方式をできるだけ早期に導入する(図表1)。併せて、利用者にはデュアルSIM端末などローミング以外の通信手段の利用を促す方針だ。

図表1 フルローミング方式のイメージ

図表1 フルローミング方式のイメージ

検討会では引き続き、「緊急通報発信のみ」を可能とするローミング方式の導入やローミング以外の通信手段について議論を進め、来年6月頃までに第2次報告書を取りまとめる(図表2)。

図表2 緊急通報の発信だけを可能とするローミング方式のイメージ

図表2 緊急通報の発信だけを可能とするローミング方式のイメージ

それでは、今後どのようなことが検討課題になるのだろうか。

容易ではないフルローミング

今回決まったフルローミング方式だが、早期導入までの道のりは決して平坦ではない。

最大のテーマが、事業者間の公平性をいかに確保するかだ。

緊急呼と一般呼を組み合わせたフルローミングの場合、緊急呼だけを分離することができないため、一般呼も含めたローミングとなり、ローミングを受ける救済事業者のネットワークに大きな負荷がかかる。また、被災事業者と救済事業者それぞれの利用者の呼を分離することもできないので、通信規制をかけると、救済事業者の利用者もつながりにくくなるリスクがある。

これに対し、第1次報告書では「救済事業者は既存の設備容量を前提として事業者間ローミングに取り組むこと」とし、救済事業者が設備容量のひっ迫に適切に対処するため、被災事業者の一般呼やデータ通信については、必要に応じて適切に通信規制をかけられるよう運用ルールを策定することが盛り込まれた(図表3)。また、被災事業者に対してローミングサービスを提供する際は、他のすべてのキャリアがその設備容量の範囲内で、救済事業者として一斉にローミングサービスを提供することとされた。

図表3 救済事業者のネットワークにおける通信の取り扱いの優先順位(イメージ)

図表3 救済事業者のネットワークにおける通信の取り扱いの優先順位(イメージ)

大規模災害などの場合、「救済事業者の音声通話の輻輳は発生する可能性が高いので、具体的にどのように制御するかが大きな課題になるだろう」と検討会の構成員を務める、野村総合研究所パートナーの北俊一氏は指摘する。

フルローミング方式は、コアネットワークの利用者認証や位置登録のデータベースに障害が発生すると、ローミングできないことも課題だ。

通信障害には、携帯電話基地局およびエントランス回線の故障によるものと、コアネットワーク等の故障によるものとがある。後者の方が発生件数は少ないが、ひとたび起きれば、全国規模で多くの人に影響を及ぼす傾向にある。しかも、KDDIの通信障害をはじめ、最近はコアネットワークに起因する通信障害が増えている(図表4)。

図表4 故障部位による通信事故の分類

図表4 故障部位による通信事故の分類

検討会で緊急通報の発信だけを可能とするローミング方式についても検討することになったのは、こうした現状を鑑みてのことだ。

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