――2009年6月に社長に就任されてから約半年が経過しました。通信業界の現状をどのように捉えていますか。
川崎 状況が大きく変わってきていると思っています。
NGNの構築、移動体通信網の高速大容量化と、新たなインフラ構築のための大規模な設備投資がこれまで続いてきました。しかし、その新たなインフラもかなり整備されつつあります。光回線は2000万加入に近づき、モバイルの通信環境も大きく向上しています。
今後も進化は続きますが、インフラ投資はある程度一巡したといえるでしょう。ですから、特にキャリア向けビジネスについては、この状況にどう適応していくかが重要になると考えています。
――キャリア向けビジネスは大きな曲がり角に来ているわけですね。では、どのような展開を考えているのでしょうか。
川崎 まず、今後数年間の固定網に関しては、NGNと並存する既存サービスのインフラ設備を効率的に運用し、有効に活用しようというニーズが大きくなるはずです。
このニーズに応えるには、これまで既存網を担ってきた我々のノウハウが必要です。派手さはありませんが、既存網の効率運用に貢献する部分で、地道なビジネスを着実に積み重ねていきます。
そしてその先には、大きなチャンスがあります。一般電話回線や従来の光ネットワークなど、数千万加入にも及ぶ既存サービスインフラを新ネットワークに巻き取っていくマイグレーション事業が始まるからです。この非常に大きな市場で一定のポジションを占められるよう、技術開発を進めていきます。
また、移動体通信の分野でもチャンスはあります。
LTEへの移行により移動体通信網が高速大容量化すれば、より多くのデータ通信を活用したサービスが展開されるでしょう。そうすると、移動と固定の連携・融合に伴う相互接続がより重要になってきます。
OKIはこの「つなぎ」の部分を担うセッションボーダーコントローラーで強みを持っており、これからチャンスが来ると見ています。
「材料だけではダメ」
――大規模な設備投資が望めないという意味では、企業ネットワークも状況は同じです。
川崎 企業向けビジネスでは、高度化した新たなインフラをどのように利活用していくのかという視点が、さらに必要です。
これまで長い間、NGNやワイヤレスブロードバンドによって目指すべき将来像が語られてきましたが、いよいよそれを具体的に実現していく段階に入ってきています。ネットワークを利活用するための提案が重要になるでしょう。
我々には通信の技術やインフラ構築の経験があり、その一方で、お客様の業務における通信・ネットワーク利活用のノウハウも持っています。これを組み合わせて、ビジネスのやり方を変えていきます。
インフラビジネスを長年やってきたOKIは、どうしても考え方がプロダクトアウトで「モノ中心」になってしまっています。料理で言えば、ネットワークや設備といったものはすべて「材料」に過ぎません。私は「材料を売るのではなく、その利活用によって法人のお客様の業務をどう変えていくのかという着眼点が、今後はもっと必要になる。お客様が食べたい料理を作って売れ」と言っています。
――ソリューション提案の強化に力を入れるということですね。
川崎 重要なのは、シェアNo.1の分野をいくつも作ることです。
例えばコンタクトセンターの分野では、当社の「CTstage」がトップシェアです。No.1になれば、業務に関連するより多くの情報がそこに集まり、ノウハウもアプリケーションも積み重ねられます。そして、それがまた新たな提案につながっていきます。他の分野でも、そうした正のスパイラルを作っていきたいのです。
「ここでは負けない」という得意分野を作って欲しいということを、社員には伝えています。
――提案型営業の強化は、通信系の販売店にとっても重要なテーマです。
川崎 販売店の方々は、OKIにとって大切な存在です。それは、エンドユーザーに確実に商品を売るということだけではありません。我々にお客様のニーズを伝えてくれる役割を持っているからです。
そのためにも、お客様の変化にどう対応していくのか、販売店の方々にもさらに勉強していただきたいと思っています。
これからは、PBXの延長線上で考えていてはお客様のニーズは解決できません。自分たちが持つ材料でどういう料理が提供できるのか、どうやったらお客様を喜ばせられるのか。それが提案できなければ、競争に勝ち抜いていくことは難しいのです。
OKI自身が変わろうとしているように、販売店の方々にも変わっていただきたいですね。そのためには我々もできるだけのお手伝いをします。